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ハンジ分隊長が御乱心だ。

というのも、今朝方被験体である
2体の巨人が何者かによって殺害されたのだ。
ソニー、ビーンと名付けた巨人達を
熱心に研究していたハンジは、
蒸発した骸を見て我を忘れて泣き叫んでいる。

貴重な被験体を殺した犯人は、
立体機動を使って逃走したらしい。

巨人を殺した犯人は兵団の中に居る、と
読んだエルヴィンの指示のもと、
訓練兵達は召集され、
立体機動装置の点検と称する犯人捜しが始まった。





「…巨人が憎くてしょうがなかったんだろうな」




卓上に並んだ立体機動装置。
兵士達は皆手を後ろに組み、
憲兵団の検査が入るのを待つ。




「でも、これじゃあ巨人に
手を貸したようなもんだよ…。
その人の復讐心は満たされたかもしれないけど
人類にとっては大打撃だ」




「…お前と違って、俺はバカだからな…
わかる気がする」




左に立つコニーが苦々しげに呟いたのを聞いて、
アルミンはその発言の意図を探るように
彼に目を向ける。
コニーは俯いていて、此方を見ようとはしない。




「もう何も考えられなくなっちまうよ…。
俺、巨人を見る前は本気で調査兵団になる
つもりだったんだぜ…」




確かに、例の"通過儀礼"の際に
コニーは誤った敬礼をしながらも
高らかに宣言していた筈だ。
調査兵団になりたいと。




「けど…今は巨人なんか見たくねぇと思ってる。
今日兵団を決めなきゃいけねぇのに…」




立体機動の検査が終わった後、
新兵勧誘式が開かれる。
そこで訓練兵達は、憲兵団、調査兵団、駐屯兵団
どの兵団に入団するかを、自らの意思で決める。
訓練兵でいられるのは今日で最後だ。
明日から104期生は、それぞれの道に進む。
3年間を共にした同期と離れるのは寂しいが、
これからは各々1人の兵士として
公に心臓を捧げる身となるのだ。




「…なぁ、アニ…お前は憲兵団にするんだよな?」




上体を前に倒し、コニーは
アルミンの右隣に立つアニに視線を向ける。
問われたアニは否定も肯定もせず黙ったまま、
面倒臭そうにコニーと目を合わせた。
アニの素っ気ない態度には慣れているので、
コニーは特に気にもとめず、
1人で納得したように頷いている。




「俺も憲兵団にしようかな…
なぁ、アルミンはどうする?」




「…僕はもう決まってるよ」




「やっぱり調査兵団なのか?」




「うん。そのために兵士になったんだから」




よく誤解されるが、アルミンは
巨人が恐くない訳では決してない。
死亡率の高い調査兵団に入団することだって
足がすくむ思いだ。
それでもこうして突き進むのは
エレンと約束した夢のため。

炎の水、氷の大地、砂の雪原。
見渡す限りの海を見に行く。

アルミンは、外の世界のことを考えるだけで
勇気が湧いてくるのだ。


キラキラした目をこちらに向けるアルミンを見て、
再びコニーの決心が揺らぐ。




「うーん…チキショー、あのジャンも
調査兵団になるって言ってるしな…」




よくつるんでいた仲間が
軒並み調査兵団を志望しているので、
コニーは迷っていた。
成績10位以内で卒業出来たことだし、
憲兵団に入れば
内地での安全な暮らしが約束されている。
しかし、気の合う仲間達とは離れ離れになる。
それは嫌だ。自分の知らない内に
友達が死んでしまうかもしれないのは。

頭を悩ませるコニーを見かねて、
アニは溜め息を吐き、鋭い瞳をコニーに向ける。




「あんたさぁ、人に死ねって言われたら死ぬの?」




「…何だそりゃ。死なねぇよ」




呆れたようにコニーが答えれば、
アニは正面を向きぴしゃりと言い放つ。




「なら自分に従ったらいいんじゃないの」




「………」




確かに…。
項垂れるコニーを苦笑しながら横目で見ていると
「アルミンはどうなの?」と
先程より幾分か柔らかい声でアニが尋ねてくる。

死ねと言われたら死ぬか?

難しい質問だ。
1人の人間としては御免蒙るが、
心臓を捧げた兵士としてはどうなのだろう?
実際にその場に立ってみないと解らないとは思うが
アルミンは悩んだ末に回答する。



「…僕は…、
そうしなきゃいけない理由が理解できたら
死ななきゃいけない時もあると思うよ。
…嫌だけどさ」



「………!!」




信じられない、と目を丸くするコニーの反対側で
そう、とアニは寂しそうに微笑んだ。


虫も殺せないような顔をして、
アルミンは下手な男よりも根性がある。
揺るぎない信念がある。
それは時に
肉体の強さよりも強靭な武器になる。




「あんた、やっぱり凄いよ」




「あ…、ありがと」




「…決めたんだね。
あんたと離れるのは寂しいけど…。
あんたのおかげで
訓練兵団の暮らしも悪くなかったよ。
ありがとう」




素直に礼を言われて何だか照れてしまい、
アルミンははにかみながら目線を下に落とす。


その時、偶然アニの立体機動装置が目に入り、
一瞬にしてアルミンの笑みが消えた。


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