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死臭が漂う街の中。
辺りには巨人の吐いた跡が残っている。
巨人には消化器官がなく、
人を食べて腹が一杯になったら
ああやって吐いてしまうのだと
ハンジが説明してくれた。
誰が誰だかわからない死体を見下ろし、
アルミンは無言で眉を下げる。
口許を覆う白い布は伝染病を防ぐため、
そして立ち込める腐臭を防ぐための役割を
辛うじて果たしていた。




「居た居た!アルミン〜ちょっといい?」




「ハンジさん…」




どんよりとした街中に、
自分を呼ぶハンジの声が響く。
座学をトップで卒業したアルミンは
既にハンジのお気に入りになっていた。




「近々行われる兵法会議のために
君の話を聞きたくてさ!ミカサも呼んでるから」




「兵法会議…?」




「詳しい話は後!とりあえずついてきて」




さぁ、こっちこっち!
女性にしては強い力で引っ張られ、
アルミンはつんのめりながらも
慌ててハンジの後を追う。
自由の翼を背負う彼女の背は大きい。
自分もこの翼を背負うようになるのかと
思いながら、色の違う双翼をぼんやりと眺める。



岩で穴を塞いでから、既に2日が経っていた。






◇◆◇◆◇◆







エレンの身柄は今、
中央にあるということが判明した。
丸2日もエレンに会えていないので、
ミカサの表情は暗い。
調査兵団本部にある執務室には
エルヴィンとリヴァイの姿もあった。
椅子に腰を下ろしているエルヴィンと、
壁に背を預けて立っているリヴァイ。
お待たせ〜、と軽く声を掛けて
中に入るハンジの後ろで敬礼をすると
リヴァイの切れ長の瞳が此方に向けられる。




「具合は?」




短く問われ、アルミンは
それが自分に向けられた質問であると瞬時に察し
「大丈夫です!ご迷惑をおかけしました!」
とハキハキと答える。
無言で頷き、引き続きつまらなそうに
壁に寄りかかるリヴァイは
既に視線を逸らしていた。
変わりにエルヴィンの強い瞳が
アルミンとミカサを捉える。




「急に呼び出してすまない。
早速だが、3日後にエレンの処遇を巡って
兵法会議が開かれる。
エレンの動向を憲兵団、調査兵団、
どちらの兵団に委ねるかを決める会議だ」




机の上で手を組み、静かに語るエルヴィンからは
ピリピリとした気迫が感じられる。
気付けば、アルミンの手は
しっとりと汗ばんでいる。
エルヴィンを前にし、緊張しているようだ。




「我々の目的はエレンを正式な団員として
迎え入れ、巨人の力を利用し
ウォール・マリアを奪還することにある。
憲兵団にエレンを引き渡すつもりはない。
そのためにはエレンに関する真実の情報と
少しの演出が必要になる」




「…演出、というと?」





「巨人に対抗出来る力を見せつける」




抽象的な物言いだったが、
エルヴィンの青い瞳がリヴァイを映したのを見て
アルミンは理解したのか、なるほど、と頷いた。




(本当に賢い子だね〜)




やっぱりあの子、良い!と感心する
ハンジの不気味な微笑みを見て、
リヴァイの眉間にはより一層皺が寄った。
1人話が読めないでいるミカサは
必死の形相でアルミンに説明を求めている。
エレンに関わることとなると
悠長にはしていられないのだ。




「あぁ、アルミン。細かい説明はしなくていい」




「えっ!?あ、はい!」




「こういった時は、なるべく偽りのない
本心を曝け出すのが大事だからね。
エレンにも詳しい話はしないつもりだ」




今確かに名前を呼ばれた。
エルヴィン団長は僕のことを覚えてくれたんだ。

心の中でそう呟くと、カッと頬が熱くなる。
ドキドキと鳴る心臓を落ち着かせようと
アルミンはゆっくりと息を吐く。




「報告書によると、エレンは巨人化の直後
ミカサ目掛けて3度拳を振り上げたとーー…」




駐屯兵団のリコが記した
奪還作戦の報告書に目を通しながら
エルヴィンは淡々と話を続ける。

隣に立つミカサが質問に答える声が耳に入るが
今アルミンの心を占めるのは
目の前に居るエルヴィンへの憧憬の念だった。


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