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夢を見た。
訓練兵団時代の夢を。





◇◆◇◆◇◆





キース・シャーディス教官の恫喝は
通過儀礼だという。
それまでの自分を否定して真っさらな状態から
兵士に適した人材を育てるためには
必要な過程だ。

訓練兵の誰もが通る道。

しかし、あろうことか整列中に
蒸かした芋を食べていたサシャは
キースの逆鱗に触れ、
5時間ぶっ通しで走らされている。



「おい…あの芋女まだ走らされてるぞ」



そろそろ夕飯の時間で、
訓練兵達は続々と食堂に集まってくる。
その中にコニーとジャンの姿があった。
2人は手摺に寄り掛かって
1人走り続けるサシャの姿を眺めている。



「しかし死ぬ寸前まで走れと言われた時より
今日はメシ抜きと言われた瞬間の方が
悲壮な顔をしたよな…」



何気ないジャンの呟きが聞こえたのか、
通り過がりの誰かが吹き出す。
その笑い声を聞いて顔をあげると
金髪碧眼の少女と視線がかち合った。




「あ、」




宝石のようなその青の瞳に
吸い込まれそうになったジャンは
頬を僅かに紅潮させ、間抜けな声を出す。
ジャンの動揺にに気付いているのかいないのか、
彼女はすぐに視線を逸らし、
食堂の中へ入っていく。

その小さな背中を見送ってから、
ジャンはコニーの肩を目一杯叩く。




「!!いってぇな!急に何だよ!?」




「な、なぁ…今通ったの誰だっけ?」




「はぁ?知らねぇよ!誰か通ったのか?」




「金髪の…髪この辺までの…背ェ小さい女の子」




自らの肩辺りを指差し、
心ここに在らずといった様子で
そう尋ねてくるジャンを見て、
叩かれた箇所を擦りながら
コニーは怪訝な眼差しを向ける。




「あぁ、確か教官にバカみてぇな名前だって
言われてた子…?」




「た、たぶんそれだ!名前何だっけ!?」




必死な形相で問い質すジャンは
コニーの両肩を掴み揺さぶる。
何たる失態。
名前も思い出せないとは。
コニーの方もすぐには思い出せないようで、
ジャンに大人しく揺さぶられながら
視線を上に向けて記憶を遡っている。
しかしどうしても名前が出てこない。
このまま2人で不毛に頭を悩ませるより、
直接聞きに行った方が効率がいいのではと
気付いた頃、すぐ側を通ったマルコが
「アルミンじゃない?」と簡単に言い当てたので
そこで漸くジャンの動きは止まる。




「アルミン……」




噛み締めるように彼女の名前を呟くと、
瞼の裏でアルミンがふわりと微笑み
此方を振り返った。


目と目が合ったその一瞬で、
ジャンの心はすっかりあの少女に
盗まれてしまったのだ。






◆◇◆◇◆◇





「ウォール・マリア崩壊以前の立体機動術は少数派の調査兵団にしか必要とされていなかったからそれだと立体機動術は衰退しちゃうんだ だから内地に行けるっていう付加価値をつけて技術の衰退を防ぐしかなかった でもそれが壁の崩壊後の現在も続いてるっていう原因は権限を持つ内地の…」





アルミンの向かいの席が空いている。
彼女の右隣にはエレン、その向かいにはミカサ。
四人掛けのテーブルに、
それに何やら1人で語り続けているアルミンの話を
遮って入る勇気はなく、
仕方なくジャンは彼女と
背中合わせの椅子に腰かけた。

パンを無心に頬張りながら、
アルミンの難しい話に
必死になって耳を傾けている。




「このままだといずれは…
って、エレン聞いてる?」



「んー」




(!!)




話を中断して、隣のエレンを覗き込むアルミン。
しかしエレンは見向きもしないで
スープを掬うスプーンを動かしている。




(あ…あの野郎、
アルミンの話に適当に返事しやがって…!)




2人は幼馴染みであり、
時々タガが外れたように語り出してしまう
アルミンを(大体ストレスが貯まっている時だ。
キースの恫喝が堪えたらしい)
好きなだけ発散させてやろうという
エレンなりの気遣いの表れだったが、
2人の関係性などジャンは知らなかったので、
素っ気ないエレンの態度に怒りを覚え
ガタッと椅子を鳴らして立ち上がった。


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