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ウォール・ローゼ壁上から
眼下に広がる壁外の景色を眺める。
すっきりと晴れ渡った空は
巨人の襲撃を受けた直後とは
思えないほどの穏やかさだ。
上体を折り曲げ、
ピクシスは外壁に群がる巨人に目をやる。



「…やはり見当たらんか。
超絶美女の巨人になら
食われてもいいんじゃが…」




「………」




生来の変人としても知られている
ピクシスの呟きに、
すぐ後ろを歩いていたアルミンは反応に困り、
曖昧に笑ってみせる。
アルミンの後ろではミカサに肩を抱かれたエレンが
やはり苦笑いを浮かべていた。




「アルミン訓練兵、じゃったかの?」




「ハッ!」




名を呼ばれ、背筋を伸ばし綺麗に敬礼をすると、
そう固くからんで良い、と
ピクシスは口角を上げる。
身体を起こして振り返った司令は、
緊張の面持ちを隠せずにいるアルミンの姿を
爪先から頭の天辺までジロジロと眺める。
隣に連れた駐屯兵団の女兵士が、
少女に不躾な視線を送る上官を牽制すべく
わざとらしい咳払いをすると、
ピクシスは愉しげに笑った。




「いやぁ稀に見る別嬪さんじゃのう…
リヴァイが好きそうな顔じゃて。
お主もそう思わんか?」




「…司令。こんな時にする話では」




「あの小僧もミシェルと別れた後は
さーっぱりじゃ。もう2年近くなるわい。
枯れるにはまだ早かろうに」




「司令、」




「どうじゃ、アルミンよ。
リヴァイに貰われてはくれんかの?」




「…は??」




「司令!いい加減にしてくださいっ!」




訳がわからず瞳をぱちくりと瞬かせると、
隣に立っていた女兵が
目をつり上がらせて火を吹いた。
まだ15歳の新兵に何言ってるんですか、と
強い口調で注意を受けようと、
ピクシスは愉快そうに笑っている。



「まぁその話は小僧が戻ってきてからじゃ。
ところで…お主は先ほど巨人の力とやらを使えば
この街の奪還も可能だと申したな?」



突然本題に入ったので、
アルミンは慌てて姿勢を正す。




「は、はい!あの時僕が言おうとしたことは…
巨人になったエレンが破壊された扉まで
あの大岩を運んで扉を塞ぐということでした」




前門付近にある縦8mある大岩のことだ。
以前、空いた穴をあの岩で塞ぎ
栓をする計画があったが、
結局岩を掘り返すことさえ出来なかった。




「ただ単純に思いついただけですが…」




ちらりとエレンに視線をやれば、
彼は目を見開いて此方を凝視していた。
巨人化したエレンは15m級。
恐らくあの岩を運ぶことが出来る。




「それに…せめてエレンの持った力に
現状を打開できる可能性を
感じてもらえないかと…」




巨人化能力を持つエレンに畏怖の念を持つ人間も、
エレンが穴を塞いだとなれば
彼を人類の希望として
好意的に捉えてくれるかもしれない。
どちらかと言えば、
アルミンの狙いは寧ろ此方の方だった。




「ふうむ…エレン訓練兵よ」




顎に手を当てアルミンの話をじっと聞いていた
ピクシスは、視線をエレンに移す。
は、はい!と慌てて返事を返すと、
ピクシスは何でもないことを聞くかのように
軽い口調で問い掛ける。





「穴を塞ぐことが出来るのか?」






「………!!」





巨人の力で穴を塞ぎ、トロスト区を奪還する。
もし出来なかったら、人類は…


ーー人間同士の殺し合いで滅ぶ。


ウォール・ローゼが突破されては
最後のウォール・シーナの中だけでは
残された人類の半分も養えないのだから。
人類が滅ぶのなら、それは
巨人に食い尽くされるのが原因ではない。




「…塞いでみせます!何があっても…!!」




やる前から出来ないと嘆くのは性に合わない。
確固たる意志を持ってエレンが断言すると、
満足そうにピクシスは大きく頷いた。


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