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室内の状況を把握した後、
アルミンは補給室を占拠する巨人達を
掃討する作戦を立案した。




「まず…リフトを使って中央の天井から
大勢の人間を投下。
あの7体が"通常種"であれば…
より大勢に反応するはずだから
中央に引き付けられる。
次にリフト上の人間がな7体の巨人
それぞれの顔に向けて同時に発砲…
視覚を奪う」




ギリギリの状況でよくそんなに頭が回るな、と
彼女の説明を聞きながらマルコは感心する。
当の本人は自ら描いた図を指差し、
作戦の説明を続けている。



「そして次の瞬間に全てが決まる。
天井に隠れてた7人が
発砲のタイミングに合わせて
巨人の急所に切りかかる…つまり、
7人が7体の巨人を同時に仕留めるための
作戦なんだ」




巨人を仕留める役に抜擢されたのは、
ミカサ、ライナー、ベルトルト、アニ
ジャン、サシャ、コニー。
運動能力的に最も成功率が高いと
アルミンが判断した7人だ。




「皆には、全員の命を背負わせてしまって…
その…ごめん…」



リフトに乗り込む前に、天井裏へ隠れる
7人に対し、アルミンは頭を下げた。
しかし皆、何も問題無いと笑って見せ
更には土壇場で立てたこの作戦を
褒めてくれた。

彼らにもう一度頭を下げて
リフトに乗り込むアルミンのことを、
眉を下げたベルトルトは
姿が見えなくなるまで見送っていた。









◇◆◇◆◇◆





夏の夜のこと。
森に囲まれている調査兵団本部は
兵士達が寝静まった夜は静かで
蝉の声だけが辺りに響いている。
訓練兵団に入団してから1年半、
いつでも自由な時間に閲覧できる
資料室に行くのが、
アルミンの密かな楽しみになっていた。

そして、そこで必ずと言っていいほど
顔を合わせる同期との時間も。




『やぁ、ベルトルト。今日も来てたんだ』




扉を開けると既に先客が居た。
小さく声を掛ければ
長身の彼は此方を振り返って微笑んだ。
ランプの灯りに照らされる、優しい微笑み。

釣られてアルミンも笑い、
手早く選んだ本を持ち、
彼の隣のカウンターに腰かける。

座った瞬間、また目を合わせて微笑む。
2人の間に言葉はない、
視線を絡ませるだけ。

その後は各々それぞれの世界に入る。
文字の羅列を追う瞳。
頁を捲る音。
静かな呼吸。
虫の声。
揺らめくランプの灯り。


読書にこれ以上適している場所が
果たしてあるだろうか、と思えるほど
静かで穏やかな空間がそこには存在した。





『…ねぇ、アルミン』





いつの間にか活字を追うのに
夢中になっていたアルミンは、
不意に沈黙を破ったベルトルトの声に
上の空で返事をする。
依然として視線は本に向けられたままで、
今彼女に話しかけても
真面目に聞いてはくれないだろうと予測される。
しかし、その方がベルトルトとしては
好都合だった。





『君が好きだよ』




聞き流してもらった方が、
自分にとっては都合が良かった。
こんなちっぽけな恋心を打ち明けたところで、
2人の関係は変わらないだろうし
何よりまず、それは"許されないこと"だから。

ここで彼女が、へぇ、そうなんだ、の一言で
片付けてくれれば
ベルトルトもきっぱりと諦めがつく。
そして今まで通り、
同じ104期生の仲間として彼女を大切にする。

それで良かったのに。




びっしりと並べられる文字の羅列から
大きな目を離し、
呆然と此方を見上げてきたアルミンの頬は
赤く染まっていて、
僅かに開いた唇からは、
吐息と共に言葉が紡がれた。




『…僕も』




『………!』





君と同じ気持ちだよ、と
彼女は消え入りそうな声で呟いた。
部屋の中はとても静かなのに、
アルミンの声は小さくて中々聞き取れない。
え?と僅かに片耳を近付けると、
内緒話をするようにアルミンは手を添えて
ベルトルトの耳元で囁く。




『僕も好きなんだ』




『………、』




彼女が放った現実味のない台詞に、
ベルトルトは瞠目し
本心かどうか確かめるべく
自分のすぐ右隣に座るアルミンを見下ろす。
体ごと彼女の方を向けると、
アルミンは真っ赤な顔をして
此方をじっと見上げていた。

2人の間に沈黙の幕が降りたが、
不思議と気まずさは感じられない。




それは一瞬のようで、永遠にも感じる時間だった。




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