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木漏れ日を反射する金色の髪は
きらきらと輝いていて
彼女の頭の上には
まるで天使の輪があるように見える。
ふんわりと微笑むその子は当たり前のように
エレンの隣に居て
自分が立ち入る隙などないように思えた。
無言でじっと彼女を見つめていると
視線に気づいたのか
彼女はくるりと此方を振り返り
人懐こく笑いかけ、
当たり前のように手を差し伸べて
エレンの隣の席を簡単に譲ってくれた。

誰よりも傍で見ているから解る。
エレンの目は常にアルミンを追っていた。
話に夢中になると周りが見えなくなる彼女を
温かく見守る眼差し、
日が暮れて家路につく彼女の姿を
見えなくなるまで見送るその瞳は
彼らしからぬ優しさに満ち溢れている。

その目を自分にも向けてほしいと
思うようになるのに、そう時間は掛からなかった。

彼の特別になりたい。
アルミンよりも、彼にとって
なくてはならない存在になりたい。
もしかしたら初めて会った瞬間から
彼に対する淡い恋心は
芽生えていたのかもしれない。


ーーーそう、生き方を教えてもらったあの日から。







◇◆◇◆◇◆






ぱちりと目を開けた先の突き抜ける晴天に、
ミカサは一瞬ここが何処で
自分が今まで何をしていたのか忘れてしまった。
ぼんやりとした頭を抱え、上体を起こし
迷子の子供のように辺りをキョロキョロと窺うと
此方に気付いたアルミンが忙しなく駆け寄ってくる。





「ミカサ!気が付いたんだね!
待って、まだ動いちゃダメだ!!」





「……!?」




ズキンと痛む身体に嫌悪感を覚え顔を歪めつつ
眼下に広がる壁外の風景を眺めて
ミカサは徐々に記憶を取り戻していく。
調査兵団は此処で闘っていた。
闘っていたのは、あの日壁を壊し
人類を追い詰めた元凶である
鎧の巨人と超大型巨人。
禍禍しい姿をした2体の巨人を
脳裏に思い浮かべるだけで胃がムカムカとし、
ミカサは手渡された水袋に口をつける。
正体がライナーとベルトルトだと知っても
ミカサは心を揺さぶられるような人間ではない。
自分が護るべき対象である
エレンとアルミン以外の人間は、
明確な理由があれば即刻切り捨てることが可能だ。




「…エレン……、」





そうだ。エレンは自らも巨人化して
鎧の巨人……ライナーと闘っていた。

ここで。すぐ目の前で。
それなのに、エレンの姿がない。



エレンがいない。




「アルミン!!エレンは!?どこ!?」





ガバッと立ち上がり
ミカサはアルミンの襟首を掴み、
問い質しながらも視線を右へ左へと動かす。
眼下に目線を落とせば
そこには大きな穴が空いていて、
確かにここで繰り広げられていた闘いの
凄惨さを物語っている。





「…エレンは連れ去られたよ、」




「…………、」




静かに告げられた言葉を聞いて、
ミカサがひゅっと息を呑む音がした。
これだけでもショックを受けているミカサに
ここで何が起きたのかを説明するのは辛かったが
アルミンは努めて冷静に、淡々と続ける。





「超大型巨人の一撃で…下にいた兵士達は
一時再起不能になるダメージを受けた。
その中で辛うじて見えたのが、
エレンが鎧の巨人に敗北する姿だった」




身体を覆う強固な皮膚のおかげで、鎧の巨人だけが
あの衝撃に耐えることが出来たのだ。




「エレンはうなじごと鎧の巨人に齧り取られた。
熱風が少し収まると同時に…
超大型巨人の残骸から、
ユミルを抱えたベルトルトが現れた。
ベルトルトはユミルを抱えて
鎧の巨人の背中に飛び移った。
…そうやって去って行ったんだ…
エレンとユミルを連れて…」





人類のために心臓を捧げた兵士でありながら
何も出来ずに立ち尽くしていた自分が悔しい。
混乱の最中、エレンが連れ去られるのをただ呆然と
目で追いかけることしか出来なかったのだ。
自分の非力さを痛感し、弱い自分に嫌気がさす。
ミカサだったら、例え一人でも
無我夢中でエレンを追い掛けるだろう。
けれどアルミンには、それが出来なかった。





「…それから、もう5時間は経ってる」





「………!!」





辺りは静かだ。
此処で死闘が行われていたなんて信じられない程。
現場は鎮静化して、時間はゆっくりと流れている。

負傷者の手当てに励む兵士達の声が
時折飛び交う程度で、
大気を震わせていた巨人の咆哮も
ひっきりなしに聞こえていた射出音もしない。
戦闘は此方が敗北して終わったのだという事実と
エレンに追い付くには絶望的過ぎる時間の経過に、
ミカサは声もなくその場に膝をついた。




「…誰か…その後を追っているの?」




真っ白い顔をした彼女の問い掛けに答えるため、
アルミンは一度目を瞑り、
そしてゆっくりと口を開く。





「…いいや。リフトがここに来るまで
馬をあっち側に運べない。
だから今は待つしかないんだ」





「そ、んな……」





「ミカサはそれに備えてくれ」




目に涙を溜めるミカサと視線を合わせるべく
アルミンもその場に膝をつき、
彼女の両肩に手を置いた。
不安げにゆらゆらと瞳を揺らすミカサを諭すように
固い口調でアルミンは言う。




「ハンジ分隊長や他の上官が
重傷で動けないでいる。
小規模でも索敵陣形を作るには…
一人でも多くの人手が必要なんだ。
きっとエルヴィン団長が率いる部隊が
リフトを運んできてくれる筈だから…
それまで待とう。わかったかい?」





大丈夫。エレンはきっと生きてる。
そんな気休めに過ぎない言葉も、
時として必要だとアルミンは痛感した。


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