1 殆ど瓦礫の山と化したウトガルド城にて。 空が明るくなると同時に視界が開け、 ハンジ率いる調査兵団の面々が 目にした光景は、 巨人の群れに囲まれている104期兵達の姿。 施設に隔離されていた彼らは丸腰で、 巨人の格好の餌となっている。 「総員!戦闘用意!!」 考えるまでもなくそう口走ったハンジと ほぼ同時に、前衛の兵士達は立体機動に移る。 ミカサはいち早く飛び出していった。 城を取り囲む巨人の数は、 少なくとも20体以上。 「後続は散開して周囲を警戒! 他すべてで巨人が群がってる所を一気に叩け!」 ハンジの指示を聞きながら、 アルミンは瓦礫の山の上で立ち竦んでいる コニー達の姿を見つけ、すぐに馬で駆け寄る。 「みんな!無事か!?」 「…アルミン!!」 ハッと此方に顔を向けるコニーの隣には、 現在疑いを掛けられている ライナーとベルトルトの姿もある。 マジで怖かった、死ぬかと思った、と 早口で騒ぎ出すコニーを宥めつつ、 アルミンは冷静を装って2人にも声を掛ける。 「よかった、2人も無事だね。 …ライナーは怪我をしてるのか?」 布切れで片腕を吊り下げているライナーに 視線を落とすと、彼は苦笑しながら答える。 「ああ。巨人に噛まれたが… クリスタが手当てしてくれたんだ」 常日頃、結婚しよ、と口走る程 クリスタに惚れているライナーは、 その時の光景を思い出したのか 顔を赤くしてそう言った。 その様子を見る限り、怪しげなところは何も無く アルミンは考え込むように口を閉ざす。 (クリスタ…そうだ、クリスタ!) まずはクリスタの安全を確保しないと、と 彼女の姿を捜して視線を張り巡らせると、 アルミンの視界を横切るようにして エレンが颯爽と飛び立っていく。 「ちょっと!あんたは攻撃しなくていいから!!」 慌てて止めに入るハンジの声がこだました後、 エレンは目をギラギラと輝かせて 7m級の巨人のうなじを勢いよく削ぐ。 ズシンと音を立てて倒れ伏す巨人を見下ろし 「やった!!討伐数1!!」と歓声をあげて エレンは地面に着地しようとするが、 バランスを崩して尻餅をついてしまった。 その光景を眺めていたアルミンは、 不意に視界に入った巨人の群れの中心を見て 怪訝に思い眉をひそめる。 ーーー巨人が巨人の死体を食べている…? その近くで、ミカサに取り押さえながら 泣き叫ぶクリスタの姿も確認出来る。 無事で良かった、とホッとしながら 「あの巨人は…?」と思わず独り言ちると、 誰かが隣に立つ気配があった。 朝陽を遮るその影の正体はベルトルトで、 3歩程の距離を空けて体を此方に向ける。 「…あれは、ユミルだよ」 随分と久しぶりに話すような気がして、 アルミンは少しの緊張感を覚える。 耳に心地好い静かな声と優しい眼差し。 身長差があるため、彼はいつも 上から覗き込むように自分の目を見る。 その瞳の奥で何を考えているのか 傍にいた頃からアルミンには解らなかった。 彼らに疑惑が掛けられているのを知りながら、 普段通りの自分を装うのは難しい。 多分、アニの時も酷い有り様だったと思う。 「まさか…ユミルが…!?」 「彼女は巨人化して…僕らを守ってくれた」 「そんな…ことが…」 右側の手足が食いちぎられ、 内臓はスクランブルエッグにされてしまった ユミルの身体は、 人間の姿に戻った後も、ピクリとも動かない。 もう少し近くで見ようと足を進めると、 エレンが腰を擦りながら駆け寄ってきて隣に並ぶ。 終始無言だったが、 エレンからピリピリとした気を感じた。 珍しく緊張しているらしい。 あの2人がいつ敵の顔を見せるか解らない。 いや、もしかしたら思い違いかも知れない。 そんな曖昧な現状に、迂闊に気を抜けないでいる。 周囲の巨人共を殲滅した後、 取り囲む兵士達の中央でクリスタは 血だらけのユミルの身体を抱き抱えながら 慈しむように腕の中の彼女を見つめて呟く。 「ユミル…。私の本当の名前… ヒストリア、って言うの」 血の臭いと硝煙が漂う中、 朝の光に照らされた2人の姿は 何処か神秘的にさえ思える。 クリスターー…いや、ヒストリア。 彼女が何故偽名を使ってまで身を隠しているのか、 真相はまだ解らない。 問い質したところで答えてくれるのかどうかも。 (ここは慎重に動かないとな…) 無表情で辺りを見渡すハンジの目が捉えたのは、 何やら言葉を交わしている ライナーとベルトルトの姿。 (一体何を話してる…?) 右腕を負傷しているライナーは険しい表情で ベルトルトに詰め寄っている。 それに対してベルトルトは冷静な顔付きで、 エレンとミカサに挟まれて立つ アルミンを一心に見つめている。 彼は2・3度口を動かした後、 難しい顔をして黙り込んだ。 彼の口許を注意して眺めていたつもりだが、 何と言ったか読み取ることは出来なかった。 驚愕し、額をおさえて項垂れる ライナーを見る限り、 彼が何か特別なことを言ったのは間違いない。 (アルミンのことか…?それとも…) ーーー…いや、まだ そうと決まった訳じゃないんだから。 逸る気持ちを押さえ付け、 ハンジは深呼吸をした後、 ズカズカと兵士達の間を割って入っていった。 × → back 121/97 |