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日付が変わる少し前、
ストヘス区を出発した一行は
ウォール・シーナ南端の
エルミハ区へと到着した。

深夜だというのに、街は
ウォール・ローゼ内地からやって来た避難民で
ごった返しており、不安を口にする声や
恐怖に啜り泣く声でざわめいている。

荷馬車から降りて隊列を整えていると、
ハンジが書類を手にして此方にやって来た。
エレン、ミカサ、アルミンの3人は今回
ハンジが率いる班と行動を共にするよう
エルヴィンに言われている。

内地に居残りとなるリヴァイは
ニック司祭を横に引き連れ、
これから戦場に赴くアルミンの姿を
黙って見つめている。
自分の目が届かない時に、
巨人が蔓延る地へ恋人を送り出すのは不安だ。
無事に帰ってきてくれるだろうか。
近くにハンジが居るから大丈夫だと思いたい。
普段、クソメガネ、と悪態を吐いているが
リヴァイはハンジの腕を買っている。
戦闘能力も知識も、
群を抜いて信用できる女だ。




「ようやくアニの身辺調査の結果が
届いたんだけど…」




資料に目を通しながら、
ハンジは今作戦で自身の部下となる
3人の前に立つ。




「104期に2名ほど、アニと同じ地域の
出身者が居るようなんだ」




「「………?」」




アニは自身の生い立ちを滅多に話さなかった。
出身については、山奥の村から来た、とだけ
話していたし、アルミンもそれ以上を
追及することはしなかった。
家族のことを何も話さなかったから、
恐らく彼女の故郷は巨人によって
滅ぼされたんだろうな、と察し
辛い出来事を思い出させないよう
敢えて触れなかったのだ。
そんな彼女に同郷の仲間が居た?
しかし、アニがアルミン以外と
馴れ合っている所なんて見たことがない。
首を傾げる3人に対し、ハンジは淡々と
書類に記された名前を読み上げる。




「ライナー・ブラウンと、ベルトルト・フーバー」




「…………!!」





その名前を聞いた瞬間、
明らかに動揺を見せたアルミンに気付き
リヴァイは眉を顰める。




「ん?どうしたのアルミン?」




ハンジも彼女の反応が気になったのか、
眉を寄せて静かに問う。
少しの違和感も見逃さない所が彼女らしい。
いや…と言葉を濁すアルミンを更に訝しみ、
「どんなことでもいいんだ。話してみて」と
念を押す。


ベルトルト。
彼はアルミンの初恋の相手だ。
優しく穏やかな時間を2人きりで重ねた。
104期の中では物静かで控え目な印象だったが、
2人で過ごす時は楽しくお喋りをしていたし、
自分に触れてくる手も積極的だった。




「…ライナーとベルトルトが同郷なのは
知っていましたが、アニとその2人が
親しい印象はありません」




当たり障りのないことを述べると、
ハンジは表情を変えずに2・3度頷いてみせる。




「…この2人は壁外調査で
"誤った"作戦企画書によって
エレンが右翼側にいると
知らされていたグループだ。
アニ・レオンハートこと女型の巨人が出現したのも
右翼側だったわけだが…」




「いや、でも、同期としては…!
その疑いは低いと思います!
無口なベルトルトは置いといても…
ライナーは俺達の兄貴みたいな奴で…
人を騙せるほど器用じゃありませんし!」




同期2人に疑いの目を向けているハンジを見て
黙っていられなくなったのか、
エレンはむきになって反論する。
これ以上、信頼関係を築いた仲間を
こんな形で失うのはゴメンだ。
巨人を倒すために共に訓練に励んだ仲間が
巨人でした、なんて馬鹿な話があってたまるか。
血相を変えるエレンを宥めるように
これだけで何が決まるってわけじゃないけどね、と
ハンジは言うが、その目はエレンではなく
依然としてアルミンに向けられていた。
口許に手を当て、何かを考え込んでいる
彼女の仕草が気になった。
恐らく、何か心当たりがある。
そう思えて仕方ない。

ハンジはゆっくりと彼女に近寄り、
その肩にポンと手を置いた。
驚いて目を見開くアルミンを見下ろして、
「アルミンはどう思う?」と再度問い掛ける。
声色はいつも通りだが、ゴーグルの下のその目に
話せ、と命令されているような気がして、
アルミンは恐る恐る口を開いた。





「ライナーは…僕とジャンとで
女型の巨人と戦っています」




心の中にずっと残っていた痼。




「ライナーは危うく握り潰される直前で…
逃げることに成功した。
そしてアニは急に方向転換して、
エレンがいる方向に走って行きました」




ライナーが女型の巨人の敵なら、
すぐに握り潰しただろうに、
まるで猶予を与えるかのように
掌の中で生かしていた。





「女型と接触する前、僕は…
推測で、エレンは中央後方に
いるんじゃないかと話してました」




「話してたって、その3人で?
エレンの場所を気にしてる素振りはなかった?」




「………エレンの場所を話したのは、
ライナーにそのことを聞かれたからでした」





「………!!」




息を呑むエレンの金色の瞳が、
隣に立つアルミンを捉える。
それは古城で、アニが女型の巨人ではないかと
明かした時と同じ、
仲間に疑惑の念を抱く自分を責めるような
鋭い目付き。



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