2


言わなきゃ。

兵長が手を止めて待っていてくれる。

…よし、言おう。




瞼を閉じて一度深呼吸をしてから、
アルミンは口を開く。




「…これの、お礼に」




震える手で髪留めに触れると、
リヴァイの目が細められる。
とてもよく似合っている、と
その眼差しだけで彼は伝えてくれる。





「兵長が望むものを、差し上げます」





刹那、息を呑む音。
普段、滅多に表情を崩さないリヴァイが
目を丸くして此方を見つめている。



ーー僕の心臓はもう此処には無いけれど。


そう、兵長の心臓だってとっくに
その左胸から離れている。


空っぽの容れ物になった兵士達は
体温を失った今でも、温もりを求めて

誰かを愛したり、
誰かに愛されたり
自らを照らす光に手を伸ばして止まない。




「兵長は僕が欲しいと言いました。
あの時は驚いて、何も言えなかったけど…
その、嬉しかったです」




極度の緊張のせいか、頭の中には
稚拙な言葉しか浮かんでこない。
おかしい、本は沢山読んでいるはずなのにな。
誰よりも口が達者だと思ってたのに。
…あ、
ミカサの滅茶苦茶な語彙力には敵わないけど。



「正直、僕は自分に
価値があるとは思いません。
立体機動は下手くそだし、
体力は全然ないし、ズル賢いし…。
兵長のような、誰もが憧れる英雄の隣に
僕なんかが居てもいいのか…」




「居てくれ」




いつの間にか俯いていたアルミンの視界に、
黒いブーツの爪先が映る。
ピカピカに磨かれた靴を見てハッとし、
弾かれたように顔を上げると
傍らにリヴァイの姿があった。
切なげな眼差しで射抜かれては、
胸が千切れそうになる。




「傍に居てくれ」




懇願するように呟き、
リヴァイはアルミンの細い身体を抱き締める。
金色の髪に顔を埋め、その甘い香りを吸い込み、
彼は漸く安堵の溜め息を吐いた。
小柄だが、がっしりとした身体に包まれ
アルミンは頬を赤く染めながら
その背中に手を回す。


人の体温というものは不思議だ。

こうして分け合うだけで
傷付いた心を癒してくれる。

もう2度と人を好きになるもんか、と
泣き喚いていた自分は、
こうして他の誰かの腕に抱かれて
その傷痕を癒していく。



アルミンの頭に頬擦りをして、
リヴァイは閉じていた目を少しだけ開ける。


「…つまりだ。
お前はもう、俺のものなんだな?」





言葉にして確認すると、アルミンは素直に首肯く。




「…はい…」




「…そうか。なら、」





囁きながら彼女の顎を掬い、
リヴァイは吐息が触れ合うほどの距離で
アルミンを見下ろし、
その艶々とした唇を親指でなぞる。

優しい手付きにアルミンはとろんと目を細めて、
唇を僅かに開けた。




軽く食むように口付けを落とせば、
アルミンの身体はピクリと反応し、
そして静かに瞳を閉じた。
もう、何をされてもいい、と言っているような
彼女の姿を見て、
リヴァイはアルミンの手を引き
ソファーに座らせる。
上から覆い被さるようにして
今度は深く唇を合わせた。
呼吸を奪うような口づけを受け、
鼻から弱々しい声を漏らすアルミンを
安心させるように頻りに頭を撫でる。
小さな唇を舌先でつつくと、
驚いたようで彼女の身体が跳ねる。
大丈夫だ、と今度は優しく背中を撫でると
アルミンは彼を迎え入れるために
恐る恐る口を開けてくれた。


舌に吸い付きながら、うっすらと瞳を開けると
眉を下げて気持ち良さそうに目を閉じている
アルミンの顔が近くにあり、
リヴァイは理性が飛びそうになるのを
何とか堪える。

相手は15歳の少女だ。
先を急ぐような真似はしたくない。


名残惜しげに唇を離すと、
息を乱したアルミンが
くったりとソファーに凭れる。

キスだけでとろとろに溶かされてしまい、
熱に浮かされた表情で
ぼんやりとリヴァイを見上げていた。


なんて顔をしやがる、と
頭を抱えたリヴァイを不思議に思い
アルミンは首を傾げる。
スカートの裾は乱れ、
剥き出しの細い脚が白く光っていた。




「…アルミン…もう、帰っちまうのか?」




「あ…」




今から帰れば兵舎の夕飯の時間に間に合う。
しかし、まだ帰りたくない。
もう少しだけ一緒にいたい。
もうすぐ壁外調査がある。
新兵の死亡率は約5割。
自分もそのうちの1人かもしれない。
ならば、その前に。




「……帰りたく、ありません…」




掠れた声でポツリと呟くと、
リヴァイは少しの間じっと此方を見下ろした後
待ってろ、と言い残し
執務室を出ていった。




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