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壁上から、兵士達に向けて
トロスト区奪還作戦についての説明を始めた
ピクシスの声を後ろに、
アルミンは駐屯兵団の参謀と共に
奪還作戦の最終確認を行っていた。




「巨人は通常、より多数の人間に反応して
追ってくるので、それを利用して
大勢で誘き寄せて
壁際に集めることが出来れば」



言いながらアルミンはトロスト区の地図上、
内門近くの角側を指差す。
大多数の兵士は此処に集結、囮になる。




「大部分は巨人と接触せずに
エレンから遠ざけることが出来ると思います」




エレンは外門近く、例の大岩辺りで
少数精鋭の班に守られながら
巨人化、穴を塞ぐ。
しかし恐らく穴から入ってくる巨人との
戦闘は避けられない。
そこは精鋭班の技量に懸かっている。




「ミカサは精鋭班として
エレンと一緒に行動してほしい」



「わかった」




エレンは私が護るから安心して。
ミカサの強い瞳は、どんな言葉よりも信頼出来た。




巨人が出現して以来、
人類が巨人に勝ったことは一度もない。
巨人が進んだ分だけ人類は後退を繰り返し、
領土をうばわれ続けてきた。
しかしこの作戦が成功した時、人類は初めて
巨人から領土を奪い返すことに成功する。

その時が、
人類が初めて巨人に勝利する瞬間だろう。


それは人類が奪われてきたものに比べれば
小さなものかもしれない。
しかしその一歩は人類にとっての
大きな進撃になる。






◆◇◆◇◆◇





作戦通り、兵士達は大部分の巨人を
街の隅に集めることに成功した。
しかし、極力戦闘を避けたのにも関わらず、
約2割の兵士を失った。
自分が立案した作戦で
多くの兵士達が散っていくのを見て、
アルミンの疲労は頂点に達していた。

固定砲整備を開始したのは
まだ朝の清々しい空気が残っていた頃。
今は、夕日が街を茜色に染める時刻だ。



(たくさん死んだ…僕のせいで…)



エレンとミカサを、
危険な場所へ送り込んだのも自分だ。
そのくせ、自分は驚異から離れた場所で
高みの見物を気取っている。何て奴だ。




「アルミン、顔色が悪いよ?」



「…大丈夫」




隣に立つマルコが声を掛けてくれるが、
アルミンは上の空で外方を向いた。
1人になりたかった。
誰もいないところで、
誰にも見つからないところで
誰も傷付けず、傷付けられないところで
気のすむまで泣いていたい。

僕は臆病者だから。




「……あれは……」




絶望の淵でアルミンの瞳が捉えたのは、
空に向かって一直線に伸びる赤い煙弾。

封鎖作戦に深刻な問題が発生した場合を
知らせる色。

それを見て、
泥水のように濁っていたアルミンの心が、
すぐに洗練された兵士のものへと変わる。




「失敗したのか…?」




…エレンに何かがあったんだ。

独り言を呟いた直後、
手に持っていた補給物資を徐に置き、
アルミンは駆け出した。



「アルミン…!?」




突然、単独行動に移ったアルミンを呼び止めようと
マルコは彼女の名を呼ぶが、
彼女は振り向きもせずに
煙の上がった方角へ駆けていく。




他の兵士の安否より、
人類の未来より、

今、エレンとミカサが無事であってくれれば
それでいい。




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