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エレンが巨人の体内から姿を現した瞬間を
運悪く大勢の者が目撃していた。
巨人という未だ多くの謎に包まれている存在に
恐れを抱く兵士達は、
エレンが人間の姿に化けている巨人だと
解釈したのだ。

恐怖は伝染する。
一人が声を上げれば、瞬く間に人集りが出来
すぐに処分しようと剣を掲げた。
エレンを庇おうとするミカサとアルミンにも
敵意を剥き出しにして。



(何だって…?巨人の体内から俺が出てきた?
何言ってんだ!?
どういうことなんだそりゃ!?)




もし、あれが夢じゃなかったとしたら。
この服の無い部分は
腕が生えたということになる。


青白い顔で口をパクパクと開閉している
エレンに、駐屯兵団の隊長は再度問い詰める。




「もう一度問う!!貴様の正体は何だ!?」




失われた左腕が再生した。
事実だとしたら、それではまるで
巨人じゃないか。




「…人間です……!!」




少年兵の悲痛な訴えは、澄み切った空に
吸い込まれていく。
辺りは水を打ったように静かになった。
大きな金色の目を見開いて、
エレンは此方を振り返っている
ミカサとアルミンを交互に見つめる。

幼い頃から共に過ごしたアルミン。
6年前に家族として迎え入れたミカサ。
3人で過ごした時間はかけがえのないものだ。
特に開拓地での生活は3人の絆をより深くした。

しかし今、
2人の少女の命を危険に晒しているのは
他でもない自分自身だということに、
エレンは気付く。




「…そうか…悪く…思うな…」




吐き捨てるようにそう言って、
スッと片手を上げるその動作は
恐らく榴弾発射の合図。




「エレン!アルミン!上に逃げる!」




「き…聞いて下さい!!
巨人に関して知ってることを話します!!」




咄嗟にエレンを抱えようとするミカサと、
それでも諦めずに話し合おうとするアルミン。


…無駄だ。
あいつらはもう俺達の声に耳を貸そうとしない。
ミカサもアルミンも、このまま
俺を庇って死ぬんだ。




(そんなこと…させるかよ!!)




いつか、母親が言ってくれた言葉が
エレンの脳裏を過る。

あんたは男の子なんだから、
女の子を守ってやんな、と。

アルミンはああ見えて気が強いし、
ミカサは男である自分より力が強い。
だから守る必要なんてない、と
まだ子供だったエレンは口を尖らせて反発した。
額を小突かれたけれど、
カルラは、いつか解る、と笑ったのだ。




沸き上がる衝動のまま、
エレンはミカサとアルミンを引き寄せ
徐に親指の付け根を噛み千切った。

口内に鉄の味が広がった瞬間、
エレンの身体がまるで沸騰したかのように
熱を帯びる。
あまりの高温に身体は蒸気に包まれ、
そして大きな爆発音と共に
"それ"は現れた。




「「うわぁぁぁぁ!!」」





突然現れた巨人の骸を前にして、
兵士達は竦み上がり、悲鳴を上げる。
その場から尻尾を巻いて逃げ出す者も居た。
人類に心臓を捧げた兵士だというのに、
巨人に対する恐怖により
打ちのめされてしまったようだ。

現場が混乱を極める中、
巨人の骨格の内側で
アルミンとミカサは戸惑いながらも
懸命に頭を回す。




「……砲声が、聞こえたところまで覚えてる…!
その後は凄まじい衝撃と…熱…!!」




「エレンが私達を守った…アルミン、
今はそれだけ理解してればいい」




「でも、どうする…!?今のところ駐屯兵団に
動きは見られないが…最終的には
攻撃を続行するだろう…!!」




巨人化を見せた後に、あの駐屯兵団隊長と
冷静な会話を続けられるとは思えない。
すぐにでも榴弾が降ってくると思っていい。


アルミンは首を捻り、つい先程
自分達を守ってくれた
巨人の皮膚をまじまじと眺める。




「たぶん、これは普通の巨人の死体と同じだ…
すぐに蒸発する!!」





早く離れないと。
そう思い立ってミカサの手首を引っ張った時、
突然背後から首根っこを掴まれ
アルミンは飛び上がる。


そこに居たのはエレンだった。
呼吸も荒く、顔色も酷い。




「…エレン!?鼻血が…!」




心配そうに眉を下げ
ミカサがエレンの顔を覗き込むが、
エレンは手の甲で徐に鼻血を拭った。




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