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ここで包み隠さず真実を述べるか、
仲間を信じて事実を隠蔽するか、
それは人類の未来を左右する選択。
ならば、選ぶ道はひとつ。




「あの時、ライナーは…
女型の巨人が凝視していた手の平に
刃で文字を刻むことも出来たかもしれない」




「…は?何だそりゃ…」




真っ直ぐな瞳でハンジを見つめ、
はっきりとそう言い切ったアルミンを見て
エレンは彼女を止めようと
骨の薄い肩に手を置く。
駄目だ、これ以上は聞いていられない。
女型の巨人のー…アニの件で、
エレンの精神は相当参っていた。

しかし、エレンの制止を受けても
アルミンは口を閉じることなく話を続ける。




「もう1人…ベルトルトのことなんですが」




そう切り出して、彼女は一度俯いた後、
意を決したように顔を上げる。





「僕は訓練兵時代、その…
ベルトルトと、親しくしてました」




「?付き合っていたってこと?」




「…はい。誰にも、言ってませんでしたが」





「「………!!」」





突然の告白に、幼馴染み2人は愕然とし
気まずそうに目を剃らすアルミンを凝視する。

付き合っていた?
ベルトルトと?
……アルミンが?
一体いつの話だ?訓練兵時代…いつ頃だ?

何も聞かされていない。
何も知らなかった。

開いた口が塞がらないでいるエレンとミカサの
此方を見る強い視線がアルミンに突き刺さる。
彼女の後ろで、勿論リヴァイも話を聞いている。
黙ったまま、いつも通りの無表情で。




「…それはおかしいな。万が一ベルトルトが
外から来た敵だとしたら、
兵団の中の人間と懇意になるのは不自然だ。
いや…何か探りを入れるためとも考えられる、か」




話を受けてハンジは腕を組み、
指先でトントンと肘を叩く。
ずば抜けた頭脳を誇るアルミンは逸材であり、
ベルトルトは敢えて彼女に近付き、
壁内の情報を仕入れようとしたのかも知れない。




「何か聞かれたり、話したりした?
例えば…兵団内部の情報とか、社会情勢とか」




「いえ…2人で過ごした間は、
他愛もない話しかしてません。
今日あった出来事とか、本の話とか…」




「本?」




「はい。消灯後、僕らは図書室や資料室に
待ち合わせて会っていたので」




「ベルトルトはどんな本を読んでた?」




「…歴史書や、軍事関連の資料が
多かったと思います。…ああ、でも
物語も読んでました。僕が薦めたやつを…」





幸せだったあの頃のことを思い出すのは辛い。
今より少しあどけなさの残る顔付きで、
此方を見下ろしにこりと微笑む記憶の中の彼。

それは、かけがえのない時間だった。

悲痛な面持ちでハンジの質問に答えるアルミンは、
ここからが本題だとでも言いたげに顔を上げる。




「親しくしていたのは半年程でしたが……
ある日突然、別れを告げられました」




「…何の前触れもなく?」




「…はい。いつも通り、過ごした後…
ベルトルトが、突然…。ごめん、って謝り出して」




蕩けるような口付けの後、
まるで自分がこの世界で
一番の不幸者だって顔をして、
彼は言い放った。





「今までのこと、忘れて、とだけ言い残して…
彼は部屋を出て行きました。
訓練兵団に入団して、
ちょうど2年が経った頃だと思います。
…ベルトルトとはそれっきり、
まともに会話をしてません」




「………」





一方的に別れを告げられたのは自分の方なのに
顔を合わせるといつだって、
ベルトルトの方が悲しみに耐えるかのように
眉を寄せて俯く。
一人ぼっちの夜を越えてきた自分の前で
何故そんな表情が出来るのかと
腹立たしくもあった。
しかし、そんな顔をされては
彼を責めることも出来ずに
2人の関係はどんどん希薄になっていった。

顎に手を当てハンジは少し考えたのち、
「話してくれてありがとう」と労いの言葉を掛け
アルミンの背に手を当てる。

女性の手にしては大きいその手の温かさに、
凍りついていたアルミンの心が少しだけ溶けた。



辺りでは着々と出陣の準備が
進められているらしく、
周りを行き交う兵士達の表情は皆強張っており、
ピリピリとした空気が支配していた。

ウォール・ローゼが突破された今、
ここから先は巨人の領域となる。

至急、散らかった頭の中を整理しながら、
次にハンジはアルミンの後ろに居る
ニックに視線を向ける。




「司祭はどうです?
何か、気持ちの変化はありましたか?」




実際に、避難民でごった返す街を目にして、
ニックに心境の変化はあっただろうか。
淡い期待を抱いての問いだったが、
彼は難しい顔をして言葉を濁す。





「…私は話せない。他の教徒もそれは同じで
変わることはないだろう…」




「…それはどーも!!
わざわざ教えてくれて助かったよ!」




皮肉たっぷりにそう言ってのければ、
何故かリヴァイに睨まれてしまい
ハンジは苛々を隠すことなく舌打ちをする。




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