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さらさらと流れるシャワーの水音が狭い浴室に響く。薄暗いそこには、人影が二つあった。


リヴァイの手は泡を纏い、彼女の白い肢体の上を優しく這う。シャオは目を閉じ大人しく身を委ねている。頭上から優しい雨を受け、二人は立ったまま向かい合い、穢された身体を清めていた。


それはまるで神聖な儀式のように。


身体を洗い終え、湯をはった浴槽に向かい合って入ると、自然と二人の唇は重なる。リヴァイの首に腕を巻きつけ、もっとと甘えてくるシャオが愛らしい。彼女は身体を重ねる時にしかこうして甘えてきてくれない。普段は上司と部下という関係性なので、それを踏まえれば当然のことなのだろうか。


音を立てて唇を離し額を合わせて彼女の瞳を覗き込むと、シャオは幸せそうに笑った。濡れた髪を後ろに梳くといつもと違った雰囲気になる。恐らく自分もそうなのだろう、シャオの手も髪を撫で付けてきた。




「…恐かったか?」




「いいえ!これくらい平気です」




なんてことないとでも言うように、シャオは間髪いれずにそう答える。その話はもう終わり、と自ら唇を合わせ、舌に吸い付いてくる彼女を、リヴァイは優しく抱き締めた。その拍子に、ちゃぷん、と浴槽の中で湯が跳ねる。


時刻はもう日付が変わった頃だ。
他の連中はもう寝ただろう。


…起きていたとしても、今回はちゃんと鍵をかけているので問題ない。

心の中でそう呟けば、リヴァイの手は容赦なくシャオの身体をまさぐり始める。




「んー…」



隠れ家の時のようにシャオが抵抗しないのは、やはり倉庫で辱しめを受けたことが原因だろう。きっと、あの穢れた記憶をリヴァイに消して欲しいと思っている。

恐らく今、目の前の彼女は抱かれることを望んでいた。軽く突起を弄ればひくりと身体を震わせて、すぐに吐息を乱したのがその証拠だ。快楽に敏感に反応しており、もっととせがむように唇をペロリと舐める。

湯の中で徐々に手の動きを激しくしていくと、浴槽の中に小さな波が立つ。

はぁ、と恍惚に身を任せて息を吐いたシャオの表情にあてられ、リヴァイの身体の中心は熱を持った。



「ふふっ…」



脇腹を掠めた指が擽ったかったのか身を捩り、シャオは笑ってリヴァイの頬を軽くつねった。自分相手にこんな真似を出来るのはコイツだけだろう、とリヴァイは苦笑する。シャオの手は悪戯にリヴァイの頬を引っ張ったり鼻を摘まんだり、子供の遊びのように弄ってきた。その度にケラケラ笑うシャオを見て、リヴァイの顔にも笑みが浮かぶ。



「…ふ……」



「!……兵長、」



珍しく声を上げて笑ったリヴァイを見て、シャオは一度虚を突かれたようだったが、すぐにまた顔を綻ばせる。出会ったばかりの頃よりも彼はよく笑うようになった。正確に言えば、二人きりの時に、だ。きっとこれは、恋人だけに見せる特別な表情なのだろう。




(…なんて可愛いんだろう)




リヴァイが聞いたら一瞬で仏頂面になりそうなことを思い、シャオはうっとりと彼の頬を両の掌で包む。彼の微笑みを見るとシャオの心は何故か切なくなり、涙が出そうになる。



身体を繋げて彼の腰に跨がり、緩やかに揺さぶられている間も、シャオは至近距離でリヴァイを見つめることをやめない。先程から穴が空くほど熱い視線を注がれ、さすがにリヴァイも気になるのか、律動を止め低い声で彼女に詰め寄る。




「…何だよ」



「へ?」



「さっきから何ジロジロ見てやがる、気が散るだろうが」



「なにって…兵長のお顔を見てました」




それに何の問題が?と疑問符をつけこてんと首を傾げるシャオに溜め息を吐きつつ、見て面白いもんじゃねぇが、とこぼすと、彼女は首を左右に振った。



「面白いから見てるんじゃないです。兵長が綺麗だからつい見惚れちゃいました」




「ほう…お前の目は使いもんにならねぇことが解った」




「本当ですよ!兵長は綺麗です」




ずっと見ていたい、なんてムキになって反論してくるシャオを黙らせる為に荒々しく口を塞ぐ。舌を絡ませれば彼女はすぐに静かになった。



…綺麗だなんて、言われてもいいような人間ではない。


この手は血に染まっている。それは人類の未来の為にと戦ったものだけでは決してない。…人生の大半を過ごした地下街で、リヴァイは人を殺したこともある。


その手で一切の穢れのない彼女を構わず抱いているのだから、自分は寧ろ咎人だ。




ーー…そして、次の作戦は。



首に赤い顔を埋めて喘ぐシャオの背を撫でながら、リヴァイは目を細め、揺れる水面を見下ろしていた。



外では、大粒の雨が降り出した。






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