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翌日、ストヘス区内の憲兵団支部の施設で会議が行われた。調査兵団幹部召還の件はひとまず保留となったが、調査兵団の独断で今回の作戦が実行されたことに対し是非が問われた。



「被害は出さぬよう挑みましたが、住民の財産や尊い命を失わせる結果になってしまいました。我々の実力が至らなかったためです。深く…陳謝します」



淡々と謝罪を述べるエルヴィンに、区長は厳しい目を向ける。しかしエルヴィンは全く意に介さず話を続ける。



「その一方で、奴等を逃がし壁が破壊されれば、被害はこれだけでは済まなかった…そういう天秤を踏まえて実行に移したのも事実です」



「…人類の終焉を阻止できたとの確証はあるのか?」



アニ・レオンハートからは何も聞き出せていない。彼女は全身を強固な水晶体で覆われているため、情報を引き出すのは不可能だ。


周囲から、女型の巨人を拘束したのは無駄骨だったと批判されるが、エルヴィンは強気な姿勢を崩さない。



「奴らの一人を拘束しただけでも価値があると思います。そう…奴らは必ずいるのです。一人残らず追い詰めましょう。今度は我々が進撃する番です」



堂々とそう主張したエルヴィンに圧倒され、議場の誰もが言葉を失った。この男は…巨人を倒すためなら、犠牲を惜しまない冷酷さを持っている。調査兵団は奇人変人の巣窟だと思っていたが、そのトップに立つこの男は相当頭がイカれてるーー…。


しんと静まり返った議場に、突然けたたましいノックの音が響き、扉を破る勢いで一人の調査兵・トーマが飛び込んできた。何事か、とその場にいる全員がトーマに視線を向ける。




「エルヴィン団長!大変です!!」






ーーーそして信じられない一言を告げる。





「ウォール・ローゼが…突破されました!!」








◇◆◇◆◇◆







ストヘス区に着いたリヴァイとシャオは、アニが拘束されている地下の収容所に居たが、血相を変えて現れたハンジに呼び出され、その話を聞いた。



アニの共謀者を割り出すため、104期生が隔離されていた施設から、500m南方。巨人が多数接近。


事実上、ウォール・ローゼは突破された。


絶望的な報せを聞き、シャオは動揺を隠しきれない。



「すぐに現場に向かいたい所だが、少し調べたいことがある。二人は外で待ってて!」



早口でそう言いつつ、ハンジは軽くシャオの肩を叩く。



「元気になって本当よかった、忙しくなるけど頼むよ!」



「はい!」



取り戻した声で返事をすれば、ハンジは優しい笑みを見せてくれた。足早に去っていくハンジの背を見送り、シャオは未だ水晶体に目を向けているリヴァイの隣に並ぶ。



「兵長、大変なことになりましたね…」



「…ったく、次から次へと騒々しい…」



リヴァイは私服だ。左足の怪我が治っていない。それに対しシャオは団服で、立体機動装置もつけている。もしかしたら、今回は彼女だけ前線へ赴くことになるかもしれない。

どうにかできないかと眉間に皺を寄せるリヴァイの横で、シャオは水晶体となって眠りにつくアニを見つめた。


エレンの同期…104期生の女の子。この子は憲兵団だったから、自己紹介をしていない。アニというらしい。エレンはどんな気持ちでこの子と戦ったのだろう。仲間思いのエレンのことだ、きっと深く傷付いているに違いない。最近顔を合わせていないから、余計に心配だった。

昨日ストヘス区で何が行われていたかは、リヴァイから聞いていた。この子が女型の巨人の正体だということも。

女型の中身は、背の小さい、金髪の少女だった。
その寝顔はとても淋しそうに見えた。



「外に行くぞ」



促され、シャオはリヴァイに右手を差し出す。左足が不自由なリヴァイを思い、腕を貸そうとしたのだが、腕ではなく掌をぎゅっと握られる。

呆気にとられ、ぱちくりと瞬きをすると、今度は左手をとられる。


リヴァイは彼女の左手を、自分の唇の前まで持ってきた。



「お前のここに」



そう言って、シャオの左手の薬指に口づけを落とした。



「まだ、指輪をはめてねぇ」



その一言で、永遠の愛を誓った昨晩の情景が甦る。
あの一時だけはすべてを忘れて、きっとこの世界で自分は一番幸せなんだと思えた。自分だけを愛してくれる、運命の人に巡り逢えて。

しかし、世界は残酷だ。二人の絆をあっという間に引き裂こうとしてくる。




「勝手に死ぬことは許さない」




有無を言わさぬ射るような眼差しは、シャオを此処に留めておきたいと強く訴えていた。しかし、リヴァイはそうは言わない。彼女が兵士として生きることを認めたのだから。

彼の複雑な胸中を察し、シャオは彼を安心させるかのように微笑んで頷いた。





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