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言い様のない喪失感を抱えたまま。



リヴァイが見たのは、女型の巨人と一人戦うミカサの姿だ。ミカサはエレンの名を叫びながら、荒々しい太刀筋で刃を浴びせ続ける。彼女の戦闘能力の高さは折り紙つきで、104期訓練兵団を首席で合格、並の兵士100名と等価と称される程の実力だ。しかし、あの女型の巨人の相手を一人でさせるのは危険すぎる。


背を向ける女型になおも斬りかかろうとするミカサを、リヴァイは背後から飛び付き無理矢理動きを制した。



「!!」



「一旦離れろ」



兵士長の突然の登場に驚いたミカサは瞬時に大人しくなる。しかし、ミカサにとって彼の登場は、彼女の神経を逆撫でするようなものだ。
審議所にて無抵抗のエレンに暴行を加えるリヴァイの姿をミカサは見ているのだから。いくらあれが演技だったとはいえ、エレンに対する愛情が強いミカサが、そうだったのかと素直に頷ける訳はない。

だがリヴァイの兵士長としての手腕は信用に値するものがあったので、顰め面をしながらもミカサは指示に従う。




女型の巨人は疲弊しているようで、速力はそれほどないように見える。



「この距離を保て」



少し離れた場所から二人は女型の後を追う。




「エレンは生きてます。目標はエレンを口に含んで戦いながら逃げています」



シャオと別れたその直後、リヴァイは巨人化したエレンの脱け殻を見た。やられてまだそんなに時間が経っていなかったようで、それは蒸発を始めていたが、エレンだと認識できるものであった。エレンの本体が項ごとかじりとられているのを確認できた。



「エレンを食うことが目的かもしれん…普通に考えれば死んでるが…」



「生きてます」




きっぱりと言い切るミカサにチラリと視線を投げると、ミカサの強い瞳がリヴァイを睨み付けている。責め立てるような眼差し。




「そもそもは、あなたがエレンを守っていれば、こんなことにはならなかった」




こんなことには。




「………」




そうかもしれない。




あのままポイントへ向かわず班の奴らと行動を共にしていれば、あいつらは死なずに済んだし、エレンは連れ去られなかった。結局女型の本体を引きずり出すことが出来なかったのだし、自分はあのまま班に留まれば良かったのだ。



「………そうか…」




批判を否定をすることなく、ただ静かに頷くリヴァイの顔を見て、ミカサは固まった。そして、自分の心無い発言を後悔することになる。
しかし一度放ってしまった言葉を飲み込むことは出来ず、彼女の性格上素直に謝ることも出来ず、ミカサは下を向いた。


気まずい沈黙はリヴァイによってすぐに破られる。



「目的を一つに絞るぞ。まず…女型を仕留めることは諦める」



既に兵士長の表情を取り戻したリヴァイは、前を走る女型の背中を見据え、ブレードの柄を握り直す。




「エレンが生きてることにすべての望みをかけ、ヤツが森を抜ける前にエレンを救い出す。
俺がヤツを削る…お前はヤツの注意を引け」




静かな口調でそう指示を受けたミカサは、同じく女型の背を眺めながら、ごくりと唾を呑み込む。



(なんて…殺気)




仕留めることは諦めるという台詞とは矛盾した、あいつを殺す、という沸々とした憎悪を感じとり、ミカサの掌に汗が滲む。









◆◇◆◇◆◇






鬱蒼と茂る木々の中を、シャオは一人駆け抜ける。女型の足音のする方向を目指し、不用意に距離を縮めないように気を付けながら、馬を走らせた。

足音と共に斬撃音も耳に入る、それはリヴァイが現在女型と交戦中であることを明らかにする。



(兵長…!!)



彼が巨人に敗れる姿なんて想像も出来ないが、仲間の死を確認した直後のシャオは、いつになく不安定であった。



彼に何かがあったらどうしよう。




そう思ったら身体は自然と動いてしまった。




全速力で戦闘音のする方へ向かい、女型の巨人の姿が確認できる場所に、シャオは飛び出した。




「「!!」」




突然現れた人影に、リヴァイとミカサは瞠目する。
その人影がシャオだと解ると瞬時にリヴァイは「ずらかるぞ!」と叫んだ。


リヴァイの腕にはエレンが抱えられている。
エレンの救出は既に成功していた。



しかし、ミカサは無防備な女型を前にしたまま動かない。



ヤツはーー…仲間をたくさん殺している。

今なら狙える。疲弊している。きっと動けない。



殺せる。




自身でそう判断したミカサは、リヴァイの指示を無視して女型に飛び掛かっていく。



「よせ!!」




リヴァイの制止に聞く耳を持たず、ミカサが項目掛けてブレードを振り上げた、その時だった。

最後の力を振り絞るように女型はミカサを叩き潰そうと左腕を振り上げる。




「!!」




予想外の反撃に反応が遅れたミカサは、咄嗟に体勢を整えようとするが、時既に遅し。



やられるーー…。



自分の命の終焉を感じ目を瞑ったミカサだったが、自身を襲うはずの痛みと衝撃は一向に感じない。
バキ、という嫌な音は確かに聞こえたはずなのに。
不審に思いパチリと目を開けると、女型の手から自分を庇うリヴァイの姿があった。


リヴァイは徐に気を失っているエレンをミカサに投げ付け、女型の左手の甲を掻き斬る。相変わらずの速業で、女型に硬化で防ぐ暇を与えない。


その攻撃で左腕の力を失ったのを見届けると、リヴァイは剣をしまいもう一度ミカサに命令した。




「もうヤツには関わるな…撤退する!」




エレンを抱き締め、ミカサは今度は素直に指示に従う。


シャオが連れてきた馬に飛び乗り、四人は合流地点である巨大樹の森西方向へと急いだ。

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