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特別作戦班ー…通称、リヴァイ班。

リーダーであるリヴァイと巨人になれる少年エレン・イェーガー、そしてリヴァイが指名した兵士五名は、拠点となる古城へと向かっていた。

エレンは後ろから監視するリヴァイの視線に怯えながら、汗ばむ手で手綱を握り締める。



(皆…リヴァイ兵長に指名されたのか…)



兵士長直々に指名されたということは、相当な実力者であるということだ。万が一エレンが巨人の力を暴走させた時は、彼らに殺される事になる。そう思うとエレンの心はずんと重くなった。いくら同じ班の仲間だとは言え、和気藹々と生活できる訳ではないだろう。訓練兵の頃のように、信頼関係を築ける訳でもない。


…何故なら俺は巨人化出来る化け物で、彼らはきっと俺を恐れているに違いない。


沈痛な面持ちのエレンに気付いたのか、それまでペトラと話していたシャオが、何の躊躇いもなくエレンの隣に並ぶ。



「乗馬って楽しいよね」



「えっ…あ、はい」



「いつも、こういう風にゆったりお散歩出来ればいいんだけどなぁ」



何でもない話をのんびりとしてくるシャオに、どう反応すればいいのか解らず、エレンは愛想笑いを浮かべた。シャオは馬の鬣を撫で、戸惑っているエレンには気にせず話し続ける。



「私、体動かすの苦手でね…馬に乗れるようになるのも大変だったんだ」



「…そうなんですか?じゃあ、何で調査兵団に…」



調査兵団は唯一壁外に遠征する兵団であり、実際に巨人と戦うリスクが非常に高い。そのため立体機動や格闘術、馬術など、身体能力を駆使した訓練が日々行われる。体を動かす事が苦手なシャオには酷過ぎるだろう。

それでも自ら調査兵団を選んだということは、エレンのように何か戦う理由があるのだろうか。


質問に答えようとシャオが口を開いた時、反対側からエレンに詰め寄る男が居た。



「調子に乗るなよ新兵…」


「はい!?」


物凄い剣幕でエレンに突っ掛かっていったのはオルオ・ボザド。討伐39体、討伐補佐9体の強者である。



「巨人か何だか知らんがお前のような小便臭いガキにリヴァイ兵長が付きっきりになるなど…」



くどくどとエレンに絡むオルオは、人類最強の兵士であるリヴァイに深く心酔しており、リヴァイの口調を真似てはその度にペトラに厳重注意を受けている。今もまた、顰め面のペトラがオルオを引き剥がしに向かっている。あの二人は喧嘩ばかりしているが昔から仲が良く、二人の言い合いは"夫婦漫才"なんて揶揄される程だ。



(ペトラも素直じゃないんだから)



以前、オルオのことが好きなんでしょう、とからかってみたところ、間髪入れずに全力で否定された。今にも燃えそうな程真っ赤な顔で。全く説得力が無かったが、シャオはそれ以上を追及することはしなかった。
あの頃のシャオは、兵士に恋愛は必要ないと思っていたからだ。いつ死ぬか解らない身で誰かを愛しては、そして愛されてはいけないと思っていた。


残された者の絶望を知っているから。



(…それなのに)



シャオはちらりと後ろを振り返る。


列の最後尾にはリヴァイが居た。彼は無表情で、視線は前を行くエレンに向けられている。恐らく怒っているわけでも機嫌が悪いわけでもないのに、鋭い三白眼が他を威圧しているように見える。

振り向いたシャオに気付いたリヴァイが、「どうしたシャオ、飽きたのか」と普段通りの声音で声を掛けてくる。


「い、いえ…」



「じきに着く。前向いてねぇと落馬するぞ」



「はい、すみません」



淡々とした口調は昨夜のリヴァイとは全くの別人だ。真夜中過ぎまで愛し合い、今朝も同じベッドで目覚めた筈なのに、集合場所に現れた彼はもう、人類最強と謳われるリヴァイ兵士長だった。自分を見ても少しも表情を崩さない徹底ぶりに、シャオは感心する。


…そうだ、自分もそうあるべきなんだ。
兵士の身で恋愛に現を抜かしているなんて。


シャオが心の中で自身にそう言い聞かせたところで、森が拓ける。石造りの重厚な古城が眼前に現れた。城と言っても、お伽噺で御姫様が住んでいるような城とは似ても似つかない外観だ。それでも、城で生活するという中々出来ない経験に、シャオの胸は高鳴る。



「わぁ、素敵なお城ですね!森に囲まれた古城なんて…」



「いいや、どうかな?久しく使われてないからな」



目を輝かせるシャオの隣に並びそう言ったのはエルド・ジン。討伐14体、討伐補佐32体。長い金髪を後ろで一つに纏めている、リヴァイの次に年長の兵士だ。責任感が強く、壁外調査では班のリーダーを任された経験もある。



「中は相当荒れてるんじゃないか?」



「えぇぇ…お化け出たらどうしよう」



「ハハッ、巨人は怖くないのにお化けが怖いのかシャオは」


エルドは笑いながら馬から飛び降りる。シャオもそれに倣い、馬から飛び降りた。着地が上手く行かずよろけるシャオを見て、エルドは苦笑しながら「大丈夫か」と駆け寄る。


「大丈夫です、おっきい石を踏んじゃって」


えへへ、と頬を掻くシャオが可愛らしくて、エルドは目を細めた。きっと妹が居るとしたらこんな感じなんだろうと思った時に、突然リヴァイの声が辺りに響いたので、エルドは顔を上げる。


既に厩舎に馬を繋げ終わったリヴァイは、古城の入り口を眺め、眉間に皺を寄せて言い放つ。




「早急に取り掛かるぞ」








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