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リヴァイの訓練は誰よりも厳しかった。
訓練兵時代の教官よりも、調査兵団でお世話になったどの上官よりも。まるで比じゃない位に厳しかった。
古城から少し離れた森林で、立体機動で何時間も飛び回ったシャオの身体はもうボロボロだ。
この後馬に乗って古城に帰れるか心配になるほど体力を消耗している。
シャオが近くの木に掴まり、ゼェゼェと呼吸を整えていると、背後から鬼教官…もとい、リヴァイが剣幕で近付いてくる。
「お前、そんなんでよく卒業出来たな」
「はっ、はい…すみません…」
「エルドに聞いたぞ、サボり癖があったと…。クソメガネが実験の助手だの何だの言いくるめてたせいでお咎め無しでこられたみてぇだが」
「…兵長、そんな、人聞きの悪いことを…」
「事実だろうが」
ピシャリとそう言い切られては反論すら出来ない。
涙目で「すみませーん…」と謝る恋人を見ても、リヴァイは鉄仮面を崩さない。今は仕事中なのだ。ここで甘やかす訳にはいかない。
「最後にさっきのコースを通して終わりだ。俺が後ろからついていく…少しでもヘマしたら森の入り口からやり直す。以上、何か質問は?」
「………兵長は鬼ですか?」
「人間だ。行くぞ」
酷使した身体は震えるが、それでも立たないと怒られる。手を貸してもくれない兵長は、自分と同じメニューをこなしているはずなのに息一つ乱れていない。流石、人類最強…!とシャオは惚れ惚れとリヴァイの背を眺めた。
(怖いけど、ちょっと腹立つけど…やっぱり格好いいなぁ)
後ろから、うふふ、と笑い声が聞こえ、とうとう頭の方もイカれたか、とリヴァイはぼんやりと思った。
◇◆◇◆◇◆
空は夕暮れ。顔を茜色に染めながら、二人は並んで馬に揺られる。
「お前の目は飾りもんか?飛んでる時に次の支点を探さねぇと間に合わねぇだろうが。身体が動かせねぇなら頭を動かせ」
「はい…」
「そもそもアンカーを投げる位置が悪い。負荷はかかるが目標より高い位置を狙え、下に居たら恰好の的なんだよ」
「はい…」
シャオは遠い目をして夕焼けを眺めている。リヴァイには目を向けず。はい、はい、と返事だけ機械的に返すシャオは、丸一日立体機動の訓練を受けさせられ臍を曲げていた。
不機嫌に説教ばかり垂れているが実は、リヴァイは今愉しくて仕方がなかった。真面目な兵士とばかり思っていたシャオの意外な一面が垣間見れて愉しい。座学はトップだったようだが、立体機動の訓練が苦手で実験を理由にサボってしまうような問題児だったとは。
ではハンジ分隊長殿が居なかったら真面目に訓練を受けてたのか?…いや、そうとは言い切れない。こいつの今の不貞腐れた態度を見ろ。こいつは常習犯だ。
「…そうか。解ったんだな?」
「はい…」
「では俺がここまで来るまでに教えてやったことを全部言ってみろ」
「はい…。
…はい?」
はた、と動きを止めるシャオと馬。彼女が何よりも可愛がっている愛馬とは一心同体の様子。リヴァイの冷たい視線がシャオの両目に突き刺さる。
無の境地で"ただ返事するだけの機械"に変身していたシャオは、勿論リヴァイの話など一文字も聞いていなかった。
だらだらと冷や汗を流すシャオに盛大に溜め息を吐くと、リヴァイはシャオを置いて馬を走らせた。慌ててその背を追いかけると、リヴァイは前を向いたまま馬蹄音に負けない声音で言った。
「俺が何でここまですると思う?」
「は、はい…」
今の返事は機械ではない。
「俺はお前に死んでほしくねぇ」
「…はい…!」
立体機動のセンスが人よりも劣るシャオに気付き、それを良くしようと忙しい中指導してくれるリヴァイは、誰よりも彼女の味方なのだ。彼女が死ななくても済んだ状況で死なないよう、時間を削ってこうして連れ出してくれる。
彼の優しさが身に沁みて、疲労感で尖っていた心が丸くなっていく。
調査兵団に入団した時から、シャオはいつ死んでも悔いはないと思っていたが、ここにきて"彼の為に生きたい"と思うようになってきてしまった。
◆◇◆◇◆◇
三階の角部屋がシャオの部屋だ。小さな部屋だが住めば都。ここにきて2週間も経てば、インテリアにも部屋の主の性格が出てくる。棚に置かれた花瓶には色とりどりの花が飾られており、それらは丁寧に手入れされていた。それらは古城の回りに咲いていた花だが美しい。背丈も均一に揃えられていて、シャオの几帳面な性格が見てとれる。
知識欲が強いシャオは本を読むのが好きだ。
本棚には沢山の本が並べられている。彼女が街へ出掛ける度に本が増えていく気がするのは、気のせいではないだろう。ハンジが読み終わった本もちゃっかり頂いているようだ。
「ふっ…うぅん…」
リヴァイはシャオのベッドの上に胡座をかき、ぼんやりと部屋の中を見渡していた。自分に向かい合わせに跨がり腰を振るのに夢中なシャオは、リヴァイが自分の部屋を見物していることには全く気付いていない。
「あっ、あっ、」
目を閉じて快楽を貪るシャオは、少し前まで生娘だったというのに、今では自ら腰を動かすようになってしまった。こいつをこうしたのは俺か、とリヴァイは苦笑する。
上下に動いていたシャオが、腰を落としてくねらせるように動くと、リヴァイは彼女の背をすーっと撫でて囁く。
「次はどうしてほしい…?」
わざと耳に吐息をかければ、シャオは身震いする。彼女の艶々と光る小さな唇に欲情した。
その小さな唇は、卑猥なことを告げる。
「…後ろ、から…」
か細い声だったが確かにそう聞こえ、リヴァイの顔は歪んだ笑みを浮かべた。
「…なぁ、いつからそんな厭らしい女になっちまったんだお前は…?」
白くて柔らかい、小振りな尻を撫でて、リヴァイは繋がったままで彼女の小さな身体を反転させる。そのまま一度背面座位の格好で下から突いてやると、可愛らしい声を上げた。
お互いが、昼間とは違う表情に興奮している。
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