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古城での生活二日目の朝。リヴァイ班の面々が朝食の席に着いている時分、古城の門を叩いたのはハンジの部下であるモブリットであった。



「夜明け前、何者かによって被験体が2体共殺されました!よって、本日の生態実験は中止するとの言伝です…!」



「!」



その報せに班員達は驚愕し、シャオに至っては椅子を倒して立ち上がっている。騒然としている中、リヴァイは顔色を変えずに紅茶を飲み干した。



「犯人は…!?」



「まだ見つかっていない。見張りが気付いた時には立体機動で遥か遠くだ」



淡々と質問に答えるモブリットを見て絶句した後、シャオは青ざめたままリヴァイに視線を移す。



「兵長…私、現場に行ってきてもいいですか?」



「あ?」



明らかに機嫌を損ねたリヴァイはカップを置き、下からシャオを睨み付けた。彼女には今日、立体機動の訓練をすると言ってある筈だ。



「お前が行ったところで何になる…犯人捜しは憲兵団の仕事だろ」



「その通りです。…ただ、」



昨夜のことを思い出してシャオは表情を歪め、拳を握り締めた。脳裏にいつものハンジの笑顔と、振り向きもせずに去っていった背中が蘇る。



「…ハンジさんが、心配です…」



…昨夜、あんな話をして
ハンジは失望しただろう。

ハンジにとって気心の知れた友人であり、肩を並べて闘う戦友でもあるリヴァイを傷つけるような真似を、平気でしようとしている自分に。

それでもシャオの立場にもなり考えてくれ、真夜中にも関わらず薬を届けてくれたハンジの胸中を考えると、シャオは心が張り裂けそうになった。

シャオは薬を飲んだ瞬間涙が止まらなくなり、なかなか寝付く事が出来なかった。しかし寝不足なのはハンジも同様だ。

早朝からこんな事件が起きてしまったのだから。


リヴァイ相手に必死で食い下がるシャオを見て、エレンは金色の瞳を揺らす。


昨日ホットミルクを飲み干した後、部屋に戻ってきたのはシャオリー一人だけだった。夜通し巨人談義をされると覚悟を決めていたエレンは咄嗟に、ハンジさんは、と尋ねようとしたが、その問いは声にならずに消える事となる。



『…ごめんねエレン!ハンジさん、急用が出来ちゃったみたいで…』



泣き腫らした目で、シャオが見え透いた嘘を吐いたからだ。鈍いエレンでも、彼女が無理矢理笑顔を作っているのがすぐにわかった。泣いた後なのに、シャオは健気に笑っていた。

それはエレンに心配をかけたくないからではなく、何も聞かないでと牽制しているような微笑みだった。



…二人は昨夜、外で何を話していたんだろう?
気にはなったが、流石に皆の前でそれを聞くような不粋な真似はしない。



「ハンジさんの顔を見たらすぐに戻ります、訓練もちゃんと受けます…許可をください、兵長…」



「………」



朝食堂に来た瞬間から、彼女の顔色が優れないと思っていたので、訓練は延期しようと思っていたところだった。なので許可は簡単に出せるが、リヴァイにはシャオの様子がどうにもおかしく見えて仕方ない。怪訝な眼差しを向けても、シャオは目を合わせてはくれず、ただ頭を下げるだけだ。昨日は殆ど他人行儀で一日が終わったので、今日は二人でゆっくり話す時間を作るつもりでいたのに。



「…駄目だと言ったところで行くんだろ、お前は」



ー…目も合わせられないということは、彼女は相応の何かを隠している。何にせよこの場ではどうしようもないので、彼女に倣ってリヴァイも目を逸らすと、シャオはペコリと頭を下げてマントを翻した。

はぁ、とこれ見よがしに溜め息を吐き、機嫌の悪さを露にするリヴァイをペトラが宥め、エルドはシャオの食器を片付け始める。兵長に逆らうシャオに悪態をつくオルオを宥めるのはグンタだ。


エレンは心配そうに、モブリットと共に外へ出ていくシャオの背中を見送った。






◆◇◆◇◆◇





現場は混乱を極めていた。本部はいつにも増して人が多く、道行く兵士達も戸惑いの色を浮かべている。

生け捕りにした巨人を繋いでいた中庭には、泣き叫ぶハンジの声が響き渡っていた。既に巨人は蒸発しており、あの巨体が跡形もなくなっている。



「ハンジさんっ…!」



華奢なシャオは、人でごった返している現場をなかなか前に進む事が出来なかった。人の波に呑まれてしまう。ならばハンジに気付いてもらおうと呼びかけるが、ご乱心中のハンジにはシャオの声など全く届かない。

その時、邪魔だ、と誰かに突き飛ばされ、シャオの軽い身体は簡単に弾き出される。



「あっ…!」



壁にぶつかる、とシャオが咄嗟に目を閉じた瞬間、誰かの体がシャオを受け止めてくれた。想像していた衝撃よりも柔らかく温かい、その正体を見ようとシャオはぱちりと目を開けた。


そして此方を見下ろす人物を見て、目を丸くする。




「…エルヴィン団長…!!」




血の気の多い兵士に突き飛ばされたシャオを受け止めてくれた紳士は、現場の様子を眺めていた調査兵団団長のエルヴィンであった。
混乱する頭で何とか敬礼をすると、楽にして良いとエルヴィンは微笑んだ。


シャオリー・アシュレイ。
あのリヴァイが本命の相手に選んだ女か…。

ただ見目が美しいだけではリヴァイの心は掴めない筈だ。果たして彼女に他にどんな魅力があるのか…」エルヴィンは興味を持ち、接触を試みる。

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