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トロスト区の巨大な鎚から巨人を潰す音が聞こえなくなったのは、雪の降り積もる頃だった。積もった雪が溶け出す頃、兵団はウォール・マリア内の巨人は掃討されたと発表した。



トロスト区から昇降機が解放され、街道の鋪装事業が開始される頃には、草花が芽吹き蝶が舞っていた。




シガンシナ区を拠点とする住民の入植が許可されたのは、トロスト区襲撃から一年が経過する頃であった。






一度目の超大型巨人の襲来から6年、調査兵団はウォール・マリア外への壁外調査を行った。








◇◆◇◆◇◆









見渡す限りの大地はとても静かで、巨人の気配は全くしない。緑が生い茂る長閑な景色を眺めながら、リヴァイは無言で馬の手綱を引く。


最終奪還作戦から8ヶ月。


リヴァイの後ろを走る104期調査兵達はみるみる成長を遂げた。


中性的な顔立ちだったアルミンは凛々しさを増して背もぐんぐんと伸び、調査兵団一の美少年となった。生き急ぎの団長に早くも次期団長に任命されるなど、周囲がアルミンに寄せる期待は大きい。


ミカサは殊更、美人になった。元々綺麗な顔立ちをしていたが、ジャンと交際を始めてからは女性らしさも身に付き、誰もが振り返る美しさだ。


一度は玉砕した初恋を実らせたジャンはと言うと、ハンジの右腕として日々奮闘している。以前モブリットが務めていた役職を任され、ミカサといちゃつく時間がないと嘆いている。


相変わらずコニーは調査兵団のムードメーカーだ。辛い出来事を乗り越えてきた彼の底抜けの明るさは、奪還作戦直後の兵団の雰囲気を元に戻す原動力となった。残念ながら身長は伸びなかったが。


そのコニーを人知れず支えてきたのはサシャだ。恋人としてだけではなく、時には親友として、仲間として、彼に寄り添った。宇宙のような胃袋も健在である。



急募入団のフロックは、奪還作戦直後は既に固い信頼関係で結ばれていた他の面々と上手く溶け込めなかったようだが、現在は立派な調査兵団の一員として此処にいる。



14代目団長のハンジは、皆のリーダーとして調査兵団を引っ張った。彼女は左目の視力を失ったが、隻眼の団長は以前と変わらぬ明るさと行動力、知識欲を持ち、この数ヶ月で先頭を立つに相応しい人物へと成長した。今も、リヴァイの前を走る後ろ姿は自信に満ち溢れている。



そして、エレン。少し髪が伸びたエレンは、憂いを帯びた瞳で考え込むことが多くなった。ジャンやコニーと騒いでいた反抗期真最中のクソガキは、今はもう居ない。恋をしていたヒストリアと、その後どうなったのかも解らない。最近は孤児院にも足を運んでいないようだ。




ちらりと左後ろに目をやれば、真っ直ぐに前を向いて走るエレンの姿がある。ぼんやりと、何を考えているのか。兵法会議で躾た生意気な少年が、この一年足らずで随分物静かになったのが、リヴァイは気掛かりだった。




「巨人だ!」




逸早くその存在に気が付いたジャンの緊張した声が辺りに響くと、皆一斉にブレードに手をやる。




「やっと現れたか!気を付けろ!!」




「いや……!あれを見てください!」




目を凝らしたサシャが指を差した方向に、確かに巨人の姿らしきものが見てとれる。しかし、俯けに突っ伏したそれが動き出す気配はない。皆はスピードを落として、慎重にその倒れた巨人へと近付いていく。



巨人は既に虫の息だった。




「……動けない……のか?」




「あの体で……少しずつ這って壁まで進もうとしたんでしょう。とても、長い時間をかけて……」





哀れみの目を向けるサシャとコニーの間を、エレンは無言のまま通り抜ける。そして馬から飛び降りその巨人に近づくと、そっと頬に手を付いた。


エレン、危ないから離れて、と急かさずミカサが声を掛けるも、彼の耳には届いていないようだ。




「……楽園送りにされた……俺達の同胞だ……」




感慨深げに呟くエレンの後ろ姿は危うくて、リヴァイは眉間の皺を濃くさせる。そこにいる誰もがエレンを呼び戻そうとしたが、それが出来ずに口をつぐむ。エレン相手に何故、声をかけるのを躊躇するのだろう。その明確な理由が自分達でも解らない。



一行は足を止め、エレンが動き出すのを待った。


暫しの沈黙の後、漸く巨人から手を離したエレンは、金色の瞳をこちらに向けた。




「ここから近いぞ」




マーレの処刑場は。






……エルディア人反逆者の流刑地、パラディ島。
楽園との境界線。


その場所で、エルディア人は巨人にされた。




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