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ーー…団長が地下から連れてきたその男は、ちっさいくせに態度はでかくて。目付きは悪ィし、言葉遣いも悪ィし。
そして鬼のように強かった。
あっという間に兵士長の座をかっさらっていった野郎とは、初めて顔を合わせた日からウマが合わなかった。
多分向こうもそう思ってるだろうな。
だって俺が近付くと汚物を見るような目でこっちを睨んでくるんだぜ?酷くねぇ?煙草くせーだの精液くせーだの、俺はどんだけ臭ぇんだ?あのクソメガネさんと違って風呂は毎日入ってるってのに!
まぁ、そういうこともあって、リヴァイ兵士長とは碌な会話を交わしたこともなかったが。
唯一、ひとつだけ互いの意見が合ったんだ。
それは無駄死にはゴメンだ、ってこと。
するのもさせるのもな。
粗野で粗暴な兵士長が、なんでここまで慕われてんのか…ずっと謎だったが、ヤツの為人を知って漸く合点がいった。
おっかねぇゴロツキ上がりの男は、実は仲間想いの良い奴だったんだ、と。
話が逸れたな。
つーワケで無駄死にはゴメンだから、
最期に俺の命を懸けて
兵士長の大切なモンを護ってやるよ。
ついでに、このコをずっと縛りつけてた歪んだ愛情も、解いてってやる。こうなりゃオプションだ!
…しかし、こりゃすげぇな…まるで呪いだ。死んだとーちゃんかーちゃんの念が、鎖みてぇに雁字搦めになってやがる。
こいつをタダで解くのは無理そうだから、ゴメンな。
脚一本だけ貰ってくぜ。
……歩けなくなっちまうな…すまん。
でも、これでもうお前は戦場に出てこなくていい。
セックスしてガキでも作って母親になって、安全な場所で兵士長の帰りを待ってろ。
いってらっしゃい、と
おかえりなさい、を言ってやれ。
そっちの方が、お前には似合ってるよ。
…な?シャオちゃん。
◇◆◇◆◇◆
涸れ井戸から這い上がったハンジは、そこに広がる景色を見て絶句した。
超大型巨人の爆風により、一瞬にして焼け野原となった街。
生きている者の気配がしない街を、ハンジはただただ茫然と歩く。左目が見えない。痛い。でも今はそんなことどうでも良い。
「誰か……生きてる……?」
問いかけたが、それは独り言だった。
誰も生きている筈がないって、頭では解っている。ただ一人生き残った孤独を紛らわす為に口にしただけの、なんの意味もない言葉。
班員は皆近くに居た。スヴェンとシャオも後を追ってきていた。恐らく巻き込まれて死んだだろう。
エレン達、104期生はどうなった?彼らは少し離れた場所にいたと思うが。
頭を無理矢理回転させ、ハンジは遠くを見渡す。
見上げた空の端っこに、忌々しい超大型巨人の姿が確認でき、ハンジは無意識で唇を噛み締める。
ーーー……人類の仇そのものだ。
お前のことだよベルトルト。
絶対に許さない。
徐に左目の血を拭い、立体機動で飛び立とうとした瞬間、誰かの泣き声が耳に入る。
驚いたハンジはピタリと動きを止める。
そして耳を澄ませて、泣き声が聞こえてくる方向を探る。ここからそんなに離れてはいないようだ。
子供が泣いているような声だ。
わーん、と大声で、感情を剥き出しにして泣いている。
……女の子が、泣いている。
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