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「本日で全ての準備は整った。ウォール・マリア奪還作戦は…2日後に決行する」




調査兵団本部内にある会議室にて。

13代目団長であるエルヴィン・スミスは、兵士長であるリヴァイ、ハンジを含む数名の分隊長達、技術班班長スヴェンの前で力強く宣言した。



「地下室には何があるのか?知りたければ見に行けばいい…それが調査兵団だろ?」





エレンは最近になって、過去の記憶をよく思い出すようになった。それを元にしたハンジの推論では、エレンの父であるグリシャ・イェーガーは『壁の外から来た人間』である可能性が高い。

彼はこの壁に入ってから独力で王政を探るなどしていたが、ウォール・マリアが突破された瞬間、王政の本体であるレイス家の元まですっ飛んで行き、狂気の沙汰に及んだ。


そして調査兵団に入りたいと言った10歳の息子に、見せたいと言った地下室。死に際にそこに全てがあると言い遺した地下室。




ーー…そこには一体何があると思う?




「…では各班を任せたぞ」




胸に宿る野望を覆い隠し、エルヴィンが静かにそう言うと、長い作戦会議を終えた面々は立ち上がる。



「今日ぐらいは肉食ってもいいですよね?」



「そうだな…たまにゃガキ共に大人の甲斐性を見せつけてやらねぇと」



凝った身体を伸ばしながら、ディルクとクラースが談笑しながら会議室を出ていく。微笑みながらそれを追うマレーネ。


あーぁ疲れた、とスヴェンが欠伸をしながら技術室に戻ろうとすると、「スヴェン!雷槍を装備するメンバーを集めて一旦模擬演習してみよう!」とハンジに絡まれる。


ええぇぇ今から………??と項垂れるスヴェンを、ハンジは引きずるようにして連れていく。



会議室にはエルヴィンとリヴァイだけが残った。




情勢が安定し、先程中央から戻ってきたばかりのリヴァイは、コートを着たままだ。ハンジが開け放ったままの扉を無言で閉めると、リヴァイはエルヴィンを正面から見据える。




「何だ?リヴァイ」




明らかに様子がおかしいリヴァイに、エルヴィンは首を傾げる。リヴァイは扉に背を預け、眉間に深い皺を刻みながら、重々しく口を開いた。




「…気の早い話だが…ウォール・マリアを奪還した後はどうする?」




「脅威の排除だ。壁の外にはどうしても我々を巨人に食わせたいと思ってる奴がいるらしいからな」



それが何なのかは、地下室に答えがあるとエルヴィンは踏んでいる。



「だからさっき言った通りだ。地下室に行ってから考えよう」



用意されている回答を読み上げるかのようにすらすらと言うエルヴィンを睨み、リヴァイは吐き捨てるように言い放つ。



「お前がそこまで生きてるかわからねぇから聞いてんだぜ?」



言いながらリヴァイはポケットに突っ込んでいた左手を出し、片腕を失ったエルヴィンの体を不躾にも指差す。その手につけられている指輪が光った。



「現場の指揮はハンジに託せ。お荷物抱えんのはまっぴらだ…お前はここで果報を待て」




「…どうしたリヴァイ。引き止める相手を間違えてはいないか?」



エルヴィンの台詞を聞き、リヴァイは苦虫を噛み潰したような顔をする。




「…俺がアイツを…引き止めなかったと思うか?」




調査兵団の兵士としての使命を全うする、というシャオの強い意志は、夫であるリヴァイでもついに動かすことは出来なかった。無表情の中にも沈鬱な色を宿す瞳を見つめ、エルヴィンは悟る。

だからリヴァイは、早急にシャオと婚姻を結んだのだろう。シャオがいついなくなってしまうか解らないから。


話を戻そうと、リヴァイは再び顔を上げて進言を続ける。




「…連中には俺がそうゴネたと説明する。…イヤ、実際そうするつもりだ。それでいいな?」




「ダメだ。」




きっぱりと否定するエルヴィンを、リヴァイは忌々しげに睨み付ける。常人なら震え上がる程の睨みだが、エルヴィンには全く通用しない。




「エサで構わない、囮に使え。指揮権の序列もこれまで通り、私がダメならハンジ、ハンジがダメなら次だ。確かに困難な作戦になると予想されるが、人類にとって最も重要な作戦になる…すべて私の発案だ。私がやらなければ成功率が下がる」




「そうだ。作戦は失敗するかもしれねぇ」




数手先まで読む目を持ち、兵士達が絶対的な信頼を寄せるエルヴィンの指揮がないのだから。しかしそれ以上に譲れないものがある。




「その上、お前がくたばったら後がねぇ」




それはエルヴィンの命だ。頭であるエルヴィンを失えば、調査兵団は機能しなくなる。リヴァイはそれを恐れていた。

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