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温かい手に頬を撫でられて、シャオの意識は一気に浮上した。

まだ寝ていたいと訴えてくる瞼を無理矢理持ち上げると、此方を優しく見下ろす愛しい人が目に入り、シャオは自然と頬を緩ませる。




「おはようございます、兵長」




「…あぁ、おはよう。よく眠れたか?」




「ぐっすりです!夢も見ずに寝ました」




「…なら、よかった」




既に陽は高く上がっている時刻で、部屋の中には燦々と陽光が射し込んでいる。きちんと整えられたベッドでぐっすり眠ったのは久しぶりだった。


リヴァイは既に私服に着替えていて、シャオの傍らに腰を下ろしている。




「兵長」



「あ?」



「お腹が空きました」




上体を起こすと同時に、シャオのお腹がぐうと鳴る。王政打倒のクーデターの最中は、野戦糧食しか口にしていなかったのにも関わらず、空腹を感じなかったのに。あぁ、と恥ずかしそうに俯くシャオを見て、リヴァイはフッと笑みをこぼす。



「…可愛いな、お前は」



「へ?お腹の音がですか??」



「…一応、それも含めといてやる」




時計を見ると、既に兵舎の食堂は閉まっている時間だ。このまま昼食の時間まで待たせるのは可哀想なので、リヴァイは着替えを始めるシャオの背中を眺めて提案する。




「…飯でも食いに行くか?」




何せ、今日は非番だ。王都なら飲食店や女性が好きそうな店も豊富だし、今日一日シャオにだけ時間を費やすのも悪くない。


それを聞いて、私服のワンピースを着て、白いカーディガンを羽織ったシャオは、大きな目を此方に向けて顔を綻ばせる。




「行きたいです!行きましょう!」




リヴァイと街を歩くなんて、夢のようだ。
普通の恋人達のように。

兵服に身を纏わず、任務でも買い出しでもなく、ただ二人きりで何でもない時を過ごす。


恋人が調査兵団の兵士長であり、自身も兵士という身分のシャオにとっては、とても贅沢な時間だ。



子供のようにはしゃぎながら、いつものように髪を纏めるシャオを、リヴァイは穏やかな瞳で見つめていた。







◆◇◆◇◆◇






フリッツ王政が倒れ、ヒストリアが女王に即位する。王都はその話で持ちきりだった。街は落ち着きなくざわめいていたが、新体制への期待で活気に満ち溢れている。


二人が入った町外れの喫茶店でも、オルブド区でのヒストリアの勇姿が讃えられていた。



「何でも壁の倍もある巨人を倒したって?」



「あぁ、多くのオルブド区の住民が目撃してんだ!」




食後の紅茶を啜りながら、リヴァイは住民達の話にじっと耳を傾けている。

ヒストリアが戦いに参加した本当の理由は、これだったのだ。


自分が巨人にとどめを刺せば、その功績がこの壁の求心力となって情勢は固まるだろう、と。しかし、まさか本当に仕留めてしまうとは…大した少女だと思う。


遅めの朝食を食べ満足したのか、穏やかな表情で、シャオも紅茶を口にしながら窓の外の景色を眺めている。

隣を歩くリヴァイは有名なので、街へ出ると度々声を掛けられた。鬱陶しそうにしながらも、掛けられる声にきちんと返事をするリヴァイの姿は、見ていて微笑ましい。そんな人々の視線はリヴァイを見た後、決まって隣に居る自分へと注がれる。それは主に羨望の眼差しや好奇の眼差しが殆どだったが、時には値踏みするような目付きでしげしげと見られ、シャオの心は疲弊していった。それに気付いたのか、リヴァイはシャオの腕を引き、偶々目に入ったこの店に連れ込んだのだ。




(私…やっぱり兵長と釣り合わないのかなぁ)




向かいに座る彼の顔は端整で、静かに紅茶を嗜む姿は地下街出身とは思えない品の良さがある。

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