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クーデター成功後も、次はエレンとヒストリアを奪還するため、礼拝堂へと向かうリヴァイ班の面々。荷馬車にてハンジとアルミンと共に作戦を練っていたシャオは、サシャの顔色が優れないのに気付き、すぐに声を掛ける。



「今度は私が馬に乗るよ!サシャは荷馬車で休んでて」




彼女のその一声で、一行は一度足を止める。

すみません、とヘコヘコ頭を下げながら荷馬車に乗り込むサシャに「大丈夫だよ」と微笑んでから、シャオは馬に跨がった。ここ最近緊迫した状況が続いていたので、皆十分な睡眠と休息がとれていないのだ。体調を崩すのは無理もない。


シャオはリヴァイの隣を走る。そして、彼がちらりと此方に目を向けたのを感じて、シャオはリヴァイの方を向いて首を傾げた。




「平気か?」




短いが自分を気遣う言葉をくれたリヴァイを見て、シャオの心がじんわりと温かくなる。大丈夫、と答えるように頷けば、リヴァイの視線はまた前を向く。

早くこの戦いを終わらせて彼に存分に甘えたい。その為には、礼拝堂で予測される憲兵との闘いで命を落とすわけにはいかない。



「…今回の敵には、ヤツが…切り裂きケニーが居る」




「都の大量殺人鬼として有名な男だろ?」




リヴァイの一言にすぐに反応を見せたのはハンジだ。




「彼を捕らえようとした憲兵が100人以上も喉を裂かれたという…まぁ何十年か前に流行った都市伝説だけど」



「全て本当だ。俺はガキの頃ヤツと暮らしたことがある」



母が病死し天涯孤独の身となったリヴァイが、地下街で野垂れ死なずに済んだのも、ケニーが育ててくれたからだった。

リヴァイの突然の告白にシャオは目を瞬かせる。彼はあまり自分の身の上を明かさない。地下街出身だということ以外は知らないし、此方から尋ねることもしなかった。

話を聞いた今、初めて、幼い頃のリヴァイの幻影が脳裏を過った気がした。



「…ハンジ。お前の部下はヤツに殺された」



すまない、と俯くリヴァイを見て、荷馬車の上のハンジは何も言えなくなってしまう。貴方は謝らなくていいよ、という台詞さえ口に出来なかった。



「ヤツがいればそれが一番の障害になる。脅威の度合いで言えば、敵に俺がいると思え。いや…あの武器がある分俺よりも厄介だ」



"対人"立体機動装置。武器は剣ではなく散弾する拳銃だ。確かに厄介だが、リヴァイ班は実際にその武器を扱う憲兵と対峙しており、対策が練れるのが不幸中の幸いであった。あの武器には弱点があります、と、いち早く声をあげたのはアルミンだ。



「対人立体機動装置の弱点の一つは、アンカー射出機と散弾の射線が同じ方向を向いていることにある」



つまり、敵の移動時の体の背面側は完全に射程外となる。



「私が予想した地形だと…礼拝堂の地下には立体機動を生かせるくらいの広い空間がある筈だ。それを考えれば、勝ち目のない敵ではないね」



「念のため、煙幕や信煙弾を使ってみてはどうでしょう?煙に隠れながら戦えば、敵の不意をつくことも可能です」



「…成る程、いいアイディアだよシャオ!一旦寄り道して、罠の準備をしよう」




ハンジは御者台に座っているコニーに、近くの武器庫に寄るように指示を出す。リヴァイの言葉を借りれば"死なない工夫"と云った所か。戦闘には準備万端で挑みたい。



「残る脅威は切り裂きケニーなんだけど…」



何か情報はないかとちらりとリヴァイに視線を送る。ハンジの視線を受け、リヴァイは無表情のまま口を開く。



「悪いな…奴のフルネームを知ったのも昨日が初めてだ」




昨日の憲兵との会話を思い出しながら、リヴァイは前を走るミカサの背を見据えて声をかける。




「ケニー・アッカーマンって名前らしいが…お前の親戚かもな」




「………!」




驚いて此方を振り向くミカサに、リヴァイは無言を返す。リヴァイ自身も、それ以上のことは知らない。



「…お前にも、まだ話してなかったな」



隣を走るシャオにだけ聞こえる音量でそう呟くと、彼女は前を見つめたまま微笑む。


永遠を誓い合った二人は、互いの過去を知らない。


シャオの方も、調査兵団に入団した理由を明かしたのはエレン唯一人だった。リヴァイにはまだ話していない。何故なら想いが通じ合ってから今まで、二人を取り囲む世界の状況が目まぐるしく変わり、ゆっくり話す時間が無かったからだ。



「この戦いが終わったら…ゆっくり、いろんなことをお話しましょうね?兵長」




悲しいことや恥ずかしいことも全て曝け出して、過去の自分ごと愛してもらいたい。その手に触れることさえ躊躇する今、シャオの心はリヴァイを強く求めていた。

珍しく未来の約束を口にするシャオに、一拍間を置いてから、リヴァイは「そうだな」と静かに答える。その時の彼が世界中の誰よりも優しい目をしていたことに、荷馬車の上のハンジだけが気付いていた。


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