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現在リヴァイ班は、エレンとヒストリアを見失い、しかも憲兵からは追われる身となっている。つまり、最悪な状況だ。



「おい」



夕食後、リヴァイはシャオを呼んだ。この中で今一番頭が働くのは彼女だと判断したからだ。シャオはちょうど髪をとかしていた所で、無防備な表情をリヴァイに向ける。



「はい」



「明日からの動きについてだが…」



渋い顔をしているリヴァイを見上げ、シャオは兵士の顔に切り替える。もう残された策は少ないのだと、リヴァイの顔を見て察する。

立ったまま話すのも何なので、リヴァイは木陰に腰を下ろす。シャオもその隣にしゃがみ込んだ。

瞬間的に、風呂に入りたい、とリヴァイは眉間の溝を深くさせる。潔癖の気がある自分にはこの生活は辛い。こうやって地べたに座ることさえも気が引けるのに。



「…エレン達が運ばれた場所なら、残念ですが私に心当たりはありません」



「…だろうな」



ある訳がない。寧ろあったら訝しむだろう。じっと思考を巡らせるリヴァイの顔は、心なしか疲れているようにも見える。元々あまり深い睡眠をとる人ではないが、ここ最近は精神的にも負担がかかる仕事が多かった。リヴァイのことが心配だったが、それを口にすることはせず、シャオは自分の意見を述べる。



「こうなったら私達を追ってくる憲兵団を、逆に捕らえるしかないと思います」



「そうだな…こっちから潜り込んでエレン達が運ばれた場所を探るか」




…もうこんな方法しか思い付かないとは。


同じことを思ったのか、二人とも剣呑な表情を浮かべて黙り込む。

それでも、このまま何もしないで敗けを認めるよりは、最後まで足掻いてみるべきだ。時間は無い。短期決戦に懸けるしかない。



「追っ手は既にかかっている筈です。明るくなったら、私が一人で森の中を歩いて囮になります」



「………」



その発言に気分を害したのか、リヴァイはじとっとした目線をシャオに向ける。



「…大した自己犠牲精神だな」



進んで囮役を担うとは。その心臓は誰のものか解っているのだろうか。皮肉を言うリヴァイに対し、「そりゃあ、この中で一番歳上ですから…」と訳の解らない理由を呟く。


夜風がシャオの髪を揺らした。
不意に薫った甘い匂いにリヴァイは目を細める。



「…ちゃんと寝とけよ」



そう言って立ち上がるリヴァイを見て、シャオは引き止めようとしたが、言葉は出てこなかった。





もう少しだけ隣に居させて。



そんな簡単な一言なのに、伝えるのが難しくて言えなかった。






◆◇◆◇◆◇






朝日が昇り、木漏れ日がきらきらと輝く中、シャオは一人で川へ水を汲みに行く。すっぽりとフードを下ろし顔が見えないようにし、時折辺りを警戒する素振りを見せながら。

昨夜リヴァイと話した通り、これは罠だ。

木の上から、リヴァイとミカサがすぐに動けるような体勢で待機していた。他の班員は散らばって、周囲の見張りに当たっている。




ーー…そして、獲物は割とすぐにかかった。



川の側の岩場に着き、シャオは屈んで桶に水を汲もうとした。その瞬間。




「動くな」




背後から、聞いたことのない男の声がした。まだ幼さの残る声だった。かちゃりという金属音がしたので、銃を向けられているのだと解る。



「両手を上にして立て。ゆっくりこっちを向け」



淡々と出される指示に大人しく従い、シャオは両手を上げて振り向く。


そこには一組の男女が居た。


金髪ボブの少女と、おかっぱ頭の少年。二人とも、シャオが想像していたより若い憲兵だった。見たところ、104期生と同い年くらいだ。新兵だろうか。目を見開くシャオと同様に、二人も彼女を見て目を丸くさせる。



「調査兵団…だよな?」



「え?…こんな綺麗な人が?」



人違いじゃない?と、シャオの顔を見て油断したのか、少女は銃口を下げる。その隙をつき、リヴァイとミカサは憲兵に頭上から飛びかかった。



「!!」



「なっ…!?」



圧倒的な力の差であっという間に体の自由を奪い、若い憲兵二人の首筋に刃を突き付ける。可哀想に、今何が起きたのか解らず目を白黒させている二人を、シャオは申し訳なさそうに傍観していた。
騙すような真似をしてごめん、と、胸の内で律儀に謝罪する。



「そうだ、ゆっくり…銃を前の奴に渡せ。声は出すなよ」



リヴァイの命令に従い、憲兵二人は銃を差し出してくる。シャオは慌ててそれを受け取った。近付いてみれば、二人とも冷や汗をかき震えているのが解る。



「あ、ありがとう…声は、出さないでね?」



優しく控え目に指示を出すシャオとは対照的に、続くリヴァイの声は冷たくて厳しい。



「兵服と装備を一式置いていけ。ブーツもだ」




「「………」」




二人は大人しく盾とユニコーンの紋章が入ったマントをとり、その下の兵服も脱いだ。腰に下げていた荷物も地面に放り投げる。シャオは少女の方に駆け寄り、立体起動装置を外すのを手伝った。


ブレードを肩にトントンと当てながら荷物を改めていると、中に手帳を見つけ、リヴァイはそれに目を通した。




「ストヘス区憲兵支部所属、マルロ・フロイデンベルグ二等兵」



「はい」



名を呼ばれ、マルロは思わず返事をした。お行儀の良い憲兵にリヴァイはチラリと視線をやり、もうひとつの荷物も漁る。同じように手帳を見つけ、それを開く。




「同じく憲兵支部ヒッチ・ドリス二等兵」




「………はい」




少しの間を置いて不服そうに返事をしたヒッチを、リヴァイは睨み付ける。こっちのガキは生意気そうだ。





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