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リーブス商会の会長、ディモ・リーブスが死んだ。中央憲兵が、彼とその部下を含める3名が山で殺されているのを発見したらしい。

ディモがエレンとヒストリア引き渡しの際に殺されたのは明白だったが、中央憲兵は適当な理由をつけ、調査兵団の仕業だと豪語した。
街のど真ん中で。


よって調査兵団は直ちに活動を停止、団員全てに出頭するよう命じられる。





ーー…群集の目の前でエルヴィンが連行されていく様を、影で見ている人物が一人居た。

ディモの息子フレーゲルだ。彼は引き渡しの際、席を外していたので、身を隠すことに成功していた。ただし、見つかるのは時間の問題だろう。彼にはもう、この狭い壁の中を逃げ回る人生しか残されていない。

それを思うと涙が出てくる。

親父、と悲痛な声を漏らし、頭を抱えるフレーゲルに…屋根の上で街の様子を窺っていたハンジは背後から近付き、徐に口を覆う。




「!!」




突然体の自由を奪われ、フレーゲルの身体は恐怖におののく。殺される、と天を仰いだ時、耳元で聞こえたのは女の声だった。



「会長のご子息だね?私はハンジ・ゾエ。調査兵団で分隊長をやってる」



アジトを出た後にすれ違ったので、ハンジはこの男がリーブス商会の者だとすぐに解った。生き残りが居たとは運が良い、と安堵しながらも、状況は緊迫している。早口で説明してフレーゲルから手を離すと、彼は涙を浮かべたまま此方を振り返った。

…またおっさんの泣き顔かよ、とハンジは苦笑する。自分の周りには巨人を前にしても動じない男しかいないから、こういった脆い男は非常に苦手だ。



「早速だけど君も会長達と行動してたよね?何があったか教えてくれ。誰がやったんだ!?」




余裕がない分キツい口調になるハンジに詰め寄られ、フレーゲルは震える声で答えた。




「第一憲兵の奴らに…黒いコートの長身の男が…親父を…」




シルクハットの男が、親父の項をナイフでかっ切って殺した。そしてエレンとヒストリアは連れて行かれた。



「もう終わりだ…調査兵がやったと憲兵の奴らが言えば調査兵がやったんだよ…俺たちは磔にされて殺される…」



その場に膝をつき項垂れるフレーゲルに対し、ハンジは快活な声を上げる。



「君が生きててよかった。さぁこの真実を明らかにしよう!」



ハンジの笑顔とこの溌剌とした声は、フレーゲルを鼓舞するためのハリボテだ。立って、と強い力で無理矢理彼を起こすと、茫然と口を開けているフレーゲルがハンジを凝視している。




「…どうやって…?あんたもさっきの見ただろ…?」




「さっきのってエルヴィンが連れて行かれたところ?勿論見てたよ」



「なら解るだろ!俺の証言なんか意味ねぇんだ!!」



腕を子犬のような力で引っ張り返され、ハンジの苛々は募るばかりだ。ハンジは蟀谷に青筋を立て、思わず声を荒げてしまう。



「…お父さんや仲間を殺した奴らがのうのうと生きてても!気にせず生きていけるっていうのか!?商会や家族に!!真実を教えてあげたくないのか!?」



頭ごなしに怒鳴られれば、流石にフレーゲルも黙っていられなくなったようで、冷や汗を垂らしながらも反論する。



「…何もあんたに貶されるような筋合いはねぇよ!第一、そりゃあんたらの都合だろ!?」



「当たり前だ!!」



感情的になり、ハンジはフレーゲルの襟首を掴む。たったこれだけのことで顔を真っ白にさせる男を見て、何だか胃がムカムカした。




「お前も自分の都合を通してみろ!!」




さぁ付いてきてもらうよと、とても女とは思えない強力で手首を握られ、フレーゲルは震え上がる。調査兵団は奇人変人の巣窟とはよく言ったものだ。この女は頭のネジが外れている。



「い、いやだ放せ!もうあんた達は負けたんだ、敗者なんだよ!!」



わざわざ言葉にして事実を突き付けてあげたのに、ハンジの瞳は光を失わない。それどころか、フレーゲルの台詞を聞いた直後、愉しそうに笑ったのだ。
またまたつまらない冗談を、と昼下がりの井戸端会議で女達が笑うように。



「何言ってんの?調査兵団は未だ負けたことしかないんだよ?」



「………っ、」





ーーーー…狂ってる。

もう何を言っても無駄だ。
マトモに会話が出来る相手ではない。


諦めたのか、抵抗するのを止めたフレーゲルを、ハンジは半ば引き摺るようにして連れていく。その双眸には強い光を宿していた。

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