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エルヴィン、リヴァイ、エレンの三人は、王都へ向かう馬車に揺られる。


作戦が決行されるストヘス区まではまだ遠い。


エルヴィンとリヴァイはいつも通り冷静沈着だったが、エレンの心臓はその間も忙しくなく鳴り続ける。

馬車がストヘス区に着いたら特定のポイントで降りなくてはいけない。そして影武者のジャンと入れ替わる。二人は体型が近いし目つきが凶悪で似たような悪人面だから大丈夫、とアルミンから殆ど悪口の太鼓判を押されたが、そんなに長くは持たないと思う。自分はあんなに馬面じゃない。

それから…アニと接触して協力を求め、それとなく地下道へ誘導する。



(アニじゃ…なかったら、どうするんだよ…)



彼女が女型じゃなかったらどうする?
傷つくと思わないか?



しかし何もしなければ、エレンが中央の生贄になるだけだ。




「そういえばリヴァイ、シャオの体調はどうだ?」



向かい側に一人で座るエルヴィンが、静かにそう尋ねてきた。エレンの左側に腰をおろし窓の外を見ていたリヴァイは、「元気だ」と素っ気なく答えた。そうか、と頷き、二人の短い会話は終了する。

壁外調査から帰還した日から、エレンはシャオに会っていない。同じ古城に生活しているのにも関わらず、全く顔を合わせていない。彼女は酷く疲れているようで、一日の大半をベッドの上で過ごしているとリヴァイから説明を受けたが、食卓にも姿を見せないシャオをエレンは心配していた。



「…エルヴィン」



今度はリヴァイが話を切り出す。窓枠に肘をつき、視線は外の景色に向けられたまま、リヴァイは静かに問いかける。



「俺の戸籍ってのは、どうなってる?」



「…どうした急に。今確認が必要か?」



「いや…」



ばつが悪そうに否定すると、リヴァイは黙り込んでしまう。その様子を見て隣に座るエレンは首を傾げる。

調査兵団に入団する際に書類は書いた筈だが、ここでは戸籍はそんなに重要視されるものではない。貴族が暮らす王都ではそうもいかないだろうが。

無言でリヴァイの質問の意味を思案すると、エルヴィンの頭のなかに一つの答えが浮かび上がる。

その答えは眼光鋭いこの男には余りに似つかわしくないものだったが、今の彼なら考えうる話でもある。


一度フッと表情を緩ませ、エルヴィンは外を見ているリヴァイと向き合う。



「戸籍を調べるついでに婚姻届も持ってくるか?」



「…え、」



声を上げたのはエレンだった。ぽかんと口を開け、年相応の少年の顔をしている。婚姻届、というおめでたい響きとは縁遠く見えるリヴァイは、飛躍する話に舌打ちをした。



「まだ決まったわけじゃない」



「何だそうか、期待させるな」



「え、兵長、シャオさんと結婚するんですか!?」



「だから、決まってねぇっつってんだろ。横で騒ぐな、うるせぇ」



大きな声を出すエレンを忌々しげに睨み付け、リヴァイは腕を組む。一言で大人しくなったエレンは、頬を紅潮させて下を向く。そういえば、この少年もシャオに好意を寄せていたことをリヴァイは今思い出した。先日性交を覗かれた時には忘れていたのに。

チラリとエレンの顔色を伺い、お前には悪いことをしたな、とリヴァイは今更ながら心の中で謝罪した。




…考えてみれば、シャオと知り合ってから、まだ一年も経っていない。交際を始めたのは一月程前だ。

それなのにシャオの存在なくして、リヴァイの人生は色を持たないものになっていた。







◆◇◆◇◆◇








体の調子は良い。寝てばかりでは鈍ってしまうので、シャオは久しぶりに古城の掃除を始めた。一人でこの城の掃除をするのには限界があるから、三人が使用する場所だけを重点的に磨く。

食堂、浴室、トイレ、談話室。リヴァイの部屋と地下にあるエレンの部屋。自分の部屋。

汗だくになりながらテキパキと無心で作業を続け、一通り終えた頃には、空は茜色に染まっていた。

洗濯しておいたシーツを取り込み、各部屋のベッドに綺麗に敷く。

二人が何時に帰ってくるのかわからないので、空いた時間を潰そうと、じきに夜だがシャオは他の部屋の掃除も始めようと階段を上る。



…そうだ。



ふと思い立ちシャオは足を止め、一度一階に戻る。そして以前街から物資を調達した際にとっておいた大きめの箱を用意すると、それを持ってまた階段を上った。



そろそろ遺品を整理しようと、考えたのだ。



主を失った4つの部屋は、人が立ち入らないので傷みが早い。放っておくとすぐに廃れてしまう。皆の思い出の品が埃を被らない内に、片付けておかないと。


シャオは彼らの部屋に入る前に、ちゃんとノックをした。

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