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調査兵団がここまで来れたのも、エルヴィン・スミスの頭脳があったから。彼こそが調査兵団の象徴であり、人類最強の兵士長として名を馳せるリヴァイを地下街から引っ張り出した男だ。




「お前は椅子に座って頭を動かすだけで十分だ。巨人にとっちゃそれが一番迷惑な話で、人類にとっちゃそれが一番いい選択のはずだ」




「いいや違う…一番はこの作戦にすべてを懸けることにー…「オイオイオイオイ待て待て。これ以上俺に建て前を使うなら、お前の両脚の骨を折る」




瞳孔を開き声を荒げるリヴァイは、いつになく感情を剥き出しにしていた。彼から発されるビリビリと音がしそうな程の威圧感が、エルヴィンを襲う。




「ちゃんと後で繋がりやすいようにしてみせる。だがウォール・マリア奪還作戦は確実にお留守番しねぇとな、しばらくは便所に行くのも苦労するぜ?」




「…ハハ…」




珍しく自分を見下ろす、鋭い瞳の奥が燃えているようにも見える。彼はどうにか自分を引き止めようと必死だ。辛辣な言葉の中にも、自分の命を護ろうとする優しさが滲み出ていて、エルヴィンは思わず笑ってしまった。




「それは困るな…確かにお前の言う通り…手負いの兵士は現場を退く頃かもしれない。……でもな」





闇の中で目を光らせ、獰猛な獣のようだった男が、随分と人間らしくなったものだ。彼をここまで変えたのは、ハンジやスヴェンら、調査兵団の仲間と…愛する者の存在。シャオはリヴァイに安らぎを与えた。自分の為ではなく、誰かの為に生きることを教えた。




リヴァイは、数え切れない屍の上に在る、自分とは違う。




「この世の真実が明らかになる瞬間には、私が立ち会わなければならない」




「………」




強い口調で言い切ったエルヴィンに、もう何を言っても無駄だと理解したのか、リヴァイは目を伏せる。彼はその場に立ち尽くし、深いため息をこぼす。




「それが…そんなに大事か?てめぇの脚より?」



「あぁ」



「人類の勝利より?」



「あぁ」



「…………。そうか…エルヴィン、



お前の判断を信じよう……」




呆れてそう呟き踵を返すところを呼び止められる。「リヴァイ」と名を呼ばれ、振り向くことなく足を止めた。




「もし、私やシャオが次の作戦で命を落としたとしても……お前は生きていてくれるか?」




「………っ!!」





耳を疑うような台詞に、リヴァイは息を呑む。カッと頭に血が上り、不吉なことを言うエルヴィンを怒鳴りつけてやろうと思ったが、今の胸中を言葉にして紡ぐのは難しくそれは出来なかった。その代わり、ダン、と思い切り壁を殴り、リヴァイは足早に会議室を後にした。


廊下で擦れ違う兵士達は、眉間に皺を寄せ早足で歩くリヴァイを恐れたのか、自然と道を開けた。




……ここ数日、リヴァイは悪夢に魘され、眠れない夜を過ごしていた。


その夢とは、自分の手が届く場所で、巨人に殺されるエルヴィンとシャオをただ茫然と眺めている夢。


血飛沫が舞い、光を失った目を此方に向け、ゆっくりと倒れるシャオ。


致命傷を負いながらも「進め!」と兵士達を鼓舞し続けるエルヴィンの姿。


二人の最期を目の当たりにし、返り血に染まった自分は、膝から崩れ落ち項垂れる。そんな夢だ。





ーーー……もし、次の作戦で本当にエルヴィンとシャオが死んだとして。それでも俺は……生きていけるのか?




心の中で問い掛けて、俺は一体何を考えているのかと自己嫌悪に陥る。死なせない。死なせたくない。死んでたまるか。呪文のように唱えながら、2日後に迫る奪還作戦を脳裏に描いた。







◆◇◆◇◆◇







……前夜祭、なんておめでたいものでは決してない。例えるならば、最後の晩餐、の方がしっくりくる。



食堂に集められた調査兵達は、テーブルの上に並んだ肉の山を見て、まるで夢でも見ているかのようにポカンと口を開いている。




「今日は特別な夜だがくれぐれも民間人には悟られるなよ?兵士ならば騒ぎすぎぬよう英気を養ってみせろ」




つい最近分隊長に昇格したばかりのディルクが、しんと静まり返る兵士達を前に笑顔で言う。




「今晩はウォール・マリア奪還の前祝いだ、乾杯!」




エプロンをつけた彼が麦酒の入ったジョッキを掲げると、兵士達は一斉に歓声を上げた。肉は貴重で平民は殆ど口にすることが出来ない高級な食材だ。それが今、手の届くところに山のように置いてある。食欲をそそるにおいに、兵士達は我先にと肉に手を伸ばす。

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