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それでいて戦場へ赴けば、先陣を切って敵へ向かって行き、一人抜きん出た戦果を挙げるのだから、考えてもみれば世の女性達がリヴァイを放っておくわけがないのだ。
それなのに彼の隣に居る自分は、大した取り柄もない平凡な兵士。
「…おい、何考えてる」
「…何も」
「嘘つけ、今のはくだらねぇこと考えてる顔だ。俺にはお前の思考回路が読めるんだ」
「…怖いです兵長…」
ガクッと項垂れるシャオを鼻で笑い、リヴァイはカップをソーサーの上へ置く。僅かに化粧を施した顔は、普段の彼女より幾分大人びて見える。
シャオは自らの美しさを解っていない。
今までの人生で散々綺麗だと持て囃されてきた筈なのに、なぜこうも無自覚なのかと不思議に思う。恐らく訓練兵時代から、彼女は巨人にしか興味がなかったのだろう。今となってはそれで良かったとリヴァイは安堵した。もし自分ではない他の誰かに彼女の純潔を奪われていたら、嫉妬に狂うのは目に見えて解る。
「食い終わったなら行くぞ」
「あ、はい!何処へ行くんですか?」
「ついてくりゃ解る」
伝票を持って立ち上がるリヴァイの背を見上げ、シャオは首を傾げる。
「…あ、お金!」
慌てて立ち上がりリヴァイを追いかければ、彼は既に支払いを済ませており、財布をしまっていた。
「あ、あの、兵長…」
「何だ」
「…御馳走様でした」
「あぁ」
こんな普通のやり取りがシャオにとっては新鮮で、何だか恥ずかしくなってくる。顔を真っ赤にして俯くシャオには気付かず、リヴァイは店を出て通りを見渡す。
王都の地理に詳しくはないが、何度か足を運んだことはある。昔、貴族の女と懇意にしていたこともあったのだから。確かこの辺りに宝飾店があったはずだ。女に、アクセサリーが欲しいと駄々を捏ねられて辟易した記憶がある。
その記憶を頼りに歩き出すリヴァイの一歩後ろを、シャオは大人しくついてくる。時折後ろを振り返ると、シャオは此方を見上げて微笑んでくれる。それだけでリヴァイの心は安らいだ。
煉瓦造りの細い通りの先に、その宝飾店は在った。
重厚な扉を開け、先に入るように促すと、高級感溢れるその店に怖じ気付いたのか、シャオはすがるような目をリヴァイに向けてきた。
「グズグズすんな。さっさと入れ」
「で、でも…」
「お前の財布の中身は減らねぇから安心しろ」
「そ!ういうことでは…」
それでもなお尻込みするシャオを無理矢理招き入れ、リヴァイは扉を閉める。扉に取り付けられたベルがちりんと鳴った。その音を合図に店の奥から、いらっしゃいませ、と上等な黒いスーツを身に付けた男性店員がにこやかな笑みを浮かべて現れる。マッチ棒のように細い男だ。リヴァイより背は高いが、彼の右腕で軽く叩けば折れてしまいそうな細さだ。
リヴァイはショーケースに一通り目を通した後、立ち竦んでいるシャオに目を向ける。
「どれがいい」
突然そう尋ねられ、シャオが首を傾げると、リヴァイは平然と続ける。
「結婚指輪」
それを聞いたシャオは息を呑み、片手で口元をおさえた。
「ご結婚されるんですね、おめでとうございます」
初めて会ったばかりの人間が、まるで友人が結婚する時のように、心からの祝いの言葉を自分に向ける。目を細めて笑う店員に、シャオも照れ臭そうに会釈を返す。リヴァイはそれを眺めた後、「好きなの選べ」とシャオの背中を軽く押した。
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