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ワイルドすぎるとモブリットに牽制されながらも、アドレナリンを放出しまくっているハンジは嬉々とした表情で顔を上げる。




「やったぞ!!聞いたかみんな!?」




ハンジが呼び掛けたのは、昨晩交渉が成立したベルク新聞社の二人と、ここトロスト区の住民たち。この憲兵達は人通りのない廃虚までフレーゲルを追い込んだと思っていたようだが、住民達はこの街を愛し、ボロボロになった建物にも住んでいるのだ。



「…全部聞いたぜ」



ぞろぞろと出てくる証人達に、地面に顔を埋めている憲兵達の顔は次第に青くなっていく。見たところ、ざっと200人は居る。その全てが証人だ。

中央憲兵がリーブス商会会長らを殺したこと、調査兵団がリーブス商会を守ろうとしたこと。そして、ディモがトロスト区を、トロスト区の住民達を守ろうとして体を張っていたこと。その全ての。



「そ…それが何になる!?何が事実かを決めるのは王政だ!!お前らこそ俺にこんなことをしてタダで済むと思うなよ!?」



四方八方から冷たい視線を浴びせられ憲兵達は怯むが、それでも無駄な悪足掻きを止めない。ご立派、悪役の鏡、とハンジは気分が高揚していくのを感じた。さぁ、何をしてやろうか。リヴァイが審議所でエレンにしたように、ボッコボコに蹴りまくってやろうか。鼻を鳴らすハンジの横を通り過ぎ、憲兵に向かっていったのはフレーゲルだった。


フレーゲルはその重い体で憲兵の男に跨がり、一度深く息を吐いた後、周囲を見渡し、静かに口を開く。




「みんな…安心してくれ」




その双眸は強く輝き、何かを決意した男の表情だった。




「この街はリーブス商会が守る。今日からフレーゲル・リーブス……俺が会長だ!」





フレーゲルが高らかにそう宣言すると、少しの間を置いてから、辺りには割れんばかりの拍手の音が鳴り響く。自らの命を懸け、中央憲兵の不正を暴いた新会長を歓迎する、トロスト区の住民達の顔は皆穏やかだった。にっくき憲兵を足蹴にすることは出来なくなったが、ハンジも笑みを浮かべてフレーゲルを祝福する。就任おめでとう、と。


そしてこの一件はベルク新聞社によって記事にされ、世間に広く知れ渡ることとなる。




ーーー…一方その頃、王都では。

中央憲兵の尋問により酷い暴行を受けながらも、決して意志を曲げないエルヴィンの姿があった。

謁見の後、エルヴィンの処分が下される。

しかし王の御前とあっても、エルヴィンの主張は変わらない。




「調査兵団を失うということは、人類の矛を失うことを意味します」



左目は潰れている。頬は腫れ上がり、右腕は巨人に喰われて跡形もない。そんな姿になっても、エルヴィンの精悍さは失われない。寧ろ、その眼光は増すばかりだ。



「迫りくる敵から身を守るのは、盾ではなく…脅威を排除する、矛です」



リーブス商会はエレンとクリスタの誘拐を企てた何者かによって殺された。調査兵団は王政に敵対していない。調査兵団の解体は不当かつ人類の損害である。ここ数日のエルヴィンの主張はそれだ。



しかし彼の発言など、王政の前では余りに無力だった。




「…話は済んだな。処刑台に連れて行け」




広場には既にエルヴィンの首を吊るす為の処刑台が準備されていた。王への反逆罪で絞首刑。調査兵団は解体される。エルヴィンが連行されていくのを、訓練兵時代の同期…現憲兵団師団長、ナイル・ドークは険しい表情で見送る。



(何ってザマだエルヴィン…この間…俺に偉そうに説教垂れといて…)



いつの間にか道は違えてしまったが、二人は若かりし頃、共に調査兵団を志した仲だ。かつての友が処刑台へと連れていかれる背を見送ることになるなんて、ナイルは苦しげに顔を歪める。


しかし、エルヴィンが自分の前を横切る時に薄ら笑いを浮かべているのを見て、ナイルは瞠目する。




(…エルヴィン、お前……
なにを企んでる?)




不穏な気配に固唾を呑んでいると、突然、謁見の間の扉がバンと勢いよく開いた。

扉を開いたのは駐屯兵団の女性だ。急ぎの用らしく、額には汗、そして息を切らせている。



何事かとその場に居合わせる全員の視線が注がれる。そして彼女が口にしたのは、この耳を塞ぎたくなるような内容だった。




「ウォール・ローゼが突破されました!!突如出現した『超大型巨人』及び『鎧の巨人』によってカラネス区の扉は破壊されました!!現在東区より避難する住民が押し寄せて来ています!!」




その報告を聞いた瞬間、皆が頭に思い浮かべたのは、巨人の脅威とは別の生存競争を強いられたウォール・ローゼの住民達の姿。

ウォール・ローゼとウォール・シーナに二分した人類による、内線の開始を示唆する光景だった。










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