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扉まであと10メートル、5メートル、3メートル…。徐々に近付いていく黒髪の巨人の姿を、シャオは固唾を飲んで見守っている。

ハンジ程ではないが、シャオが巨人の研究に興味を示している事は知っていた。そうでなければハンジの話相手は務まらないだろう。



「あっ…やっぱり扉を!!」



塞ぎました!と、指を差しながら此方を見上げてきたシャオの目はきらきらと輝いていて、僅かながら頬も紅潮している。それはまさに子供が憧れのヒーローを見るような顔で、リヴァイはクッと喉を鳴らして笑った。

シャオは自分が笑われている事など気付いていないようで、すぐに視線を巨人に戻す。そしてすぐに表情を変え、屋根から身を乗り出した。



「オイ、危ねぇ…」



「巨人が居ません!」



「…あ?」



彼女の緊迫した声にリヴァイは、普段よりは幾分柔らかかった表情を元に戻す。



「あ、すみません居ました!でも座り込んでます、衰弱してるみたい…」



ここからだと距離があるため、目を細めて一生懸命例の巨人の様子を見ているシャオは、完全に心ここに在らずである。



「訓練兵のうち一名が巨人の肩に乗り何かを叫んでます…黒髪の巨人と訓練兵二名を狙って10m級の巨人が近付いていきます!」



そこで漸くシャオは右隣のリヴァイを見上げたが、リヴァイは既にそこにはいなかった。

シャオの話を途中まで聞いたところで、リヴァイは訓練兵を助けに門の方へと向かっていた。



「兵長!」



慌てて立体機動装置を使い、シャオもリヴァイの後を追う。門を目指して移動するなか、街に散らばる無数の遺体を見つけ、胸が締め付けられる。

巨人に噛まれて身体半分を失った者、巨人に食われたのだろう、腕や脚だけが転がっていたりもした。

立ち込める死臭に眉間に皺を寄せ、シャオは漸く門の前までたどり着いた。



そこには立ち尽くす三名の訓練兵を、倒した巨人の上から見下ろすリヴァイの姿があった。



訓練兵が三人居たことにシャオは驚くが、それ以上に後で煙を上げている巨人の骨に興味をそそられる。消滅する前に近くで見たい、という欲望に駆られ、シャオは地面に下り立ち、四人の方へと駆ける。


近付いてくる気配を察したのか、剣幕で訓練兵に状況説明を要求していたリヴァイの視線は、眼光の鋭さはそのままに正面のシャオに向けられる。



「テメェはトロい癖に走ってんじゃねぇ!」



危ねぇだろうが、と付け足さないところが、リヴァイが不器用だとハンジに囃し立てられる理由だ。



「すみません!様子が気になったので来ました!君達は訓練兵?」



リヴァイに雷を落とされても動じず、シャオはキッチリと敬礼をした後、視線を後ろの三人に向ける。その時既に骨と化した巨人は蒸発しており小さくなっていた。

シャオの視線を受け、その中で一番小柄の少年が敬礼をして立ち上がる。



「104期訓練兵団所属、アルミン・アルレルトです!」


「同じく104期訓練兵団所属、ミカサ・アッカーマンです!」


ミカサと名乗る黒髪の少女は腕に衰弱した少年を抱え膝をついたまま、右手を心臓の前に置く。



「アルミンとミカサ、と…」



「彼も同じく104期訓練兵、エレン・イェーガーです!」


エレンは意識朦朧としており言葉を発せないようで、代わりにアルミンがそう紹介してくれた。
虚ろながらも開かれている金色の瞳が珍しく、シャオは吸い込まれるように顔を近づける。するとミカサが敵意のある目を向けてきたので慌てて身体を起こした。



「アルミン、ミカサ、エレン!私は調査兵団所属のシャオリー・アシュレイです!」



「…おいおい、チンタラ自己紹介してる場合か?」



不機嫌を隠さずにリヴァイがシャオの隣に立つと、アルミンとミカサの表情が固まる。人類最強の兵士が放つ威圧にすくみ上がっているようだ。

しかしシャオはそれを平然と受け止め、右隣のリヴァイを見上げた。



「俺達は壁外調査から戻ったばかりでこの街で何が起きたのか把握出来てねぇ。そこの金髪のガキ、状況をわかりやすく説明しろ」



指名されたアルミンは緊張した面持ちで、ピクシス司令が下した"トロスト区奪還作戦"までの説明を始めた。

5年前ウォール・マリアの壁を破壊した超大型巨人が再び壁を破壊したこと。その後、巨人の急襲を受け、アルミンを助けようとしたエレンが巨人に喰われたこと。しかしエレン自らも巨人化して一命をとりとめたこと。巨人化したエレンが多数の巨人を討伐したこと。

そして、そのエレンの巨人化能力を使い、岩で大穴を塞ぐ作戦が立てられ、その作戦がたった今成功したこと。


一通り説明を聞き、シャオは感極まった様子でリヴァイを見上げる。



「リヴァイ兵長、あの男の子は人類の希望です…!」



人類が初めて巨人に勝った日。今日は巨人に奪われた領土を人類が奪還に成功した記念すべき日だ。
大袈裟に肩を震わせるシャオに呆れながら、リヴァイは身を翻す。



「要するに穴は塞がったがまだこの街には巨人が残ってるんだな?」



「は、はい…」



「だ、そうだ。ガキ共を壁の上に運んだら壁内の巨人を掃討する」



淡々と次の行動の指示を出し、リヴァイはエレンとミカサを抱える。



「了解!」



兵士の顔に戻ったシャオはアルミンを抱え、立体機動装置を作動させるり。
ミカサ以外の女性とこんなに身体を密着させるのは初めてのことで、頬を赤く染めるアルミンに気付いたのか、リヴァイは何気無い振りを装って釘を差す。


「アルミンと言ったか…そいつは絶望的に立体機動が下手くそだ。しがみついてねぇと振り落とされるぞ」


「えっ…」



一瞬にして顔色が赤から青に変化したアルミンを見て、シャオは困ったように笑い、「しがみついててください」と呟いた。




トロスト区内に閉じ込めた巨人の掃討戦には丸一日が費やされ、その間壁上固定報は絶えず火を吹き続けた。壁に群がった巨人の殆どが榴弾によって死滅し、僅かに残った巨人も主に調査兵団によって掃討された。

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