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2日後、ストヘス区にて。



「調査兵団が民間人を殺した!一部の団員は出頭命令に背き未だ逃亡中!それらしき人物を見かけたら至急憲兵に情報提供を願う!!」



リヴァイを始めとする調査兵団は、中央憲兵により指名手配されていた。街にはリヴァイの似顔絵付きの手配書が出回り、2日前、トロスト区で団長であるエルヴィンが連行された事は、新聞に大きく取り上げられていた。




「こんなのが配られてたぞ」



リヴァイ班が一時的に身を潜めている小屋に、様子を見に街へ出ていたジャンが戻ってきた。
その手には一枚の手配書。それにはヘタクソなリヴァイの似顔絵が描かれていた。全然似ていない。ふっ、と少し笑ったシャオを、ジャンは目を細め柄にもなく優しい顔で見下ろす。

久しぶりの笑顔だ。



「これで調査兵団は解散状態だな…」



独り言のようにアルミンが呟くと、あぁ、と頷きながらジャンはシャオの隣に腰かける。



「てっきり巨人に食われる最期を覚悟してたんだが、まさか人から恨まれて晒し首とはな…」



そう呟いて項垂れるジャンに、まだそうとは決まってないよ、と隣に座るシャオが反論してきた。彼女を横目で見ると、澄み切った瞳を向けられる。



「エルヴィン団長がこのまま大人しく濡れ衣を着せられて兵団を畳む筈がないよ。それに…兵長の機転でストヘス区の張り込みが功を奏したでしょう?」



「………」




まだ兵長の肩を持つのかと、ジャンは眉間に皺を寄せる。リヴァイがシャオに冷たい態度をとっている事は知っていた。作戦中ということもありリヴァイもピリピリしているのだろうが、それにしては明け透けだ。



「絶対あの葬儀屋に間違いないよ、2つの棺と一緒に宿に泊まるなんてありえないから…」



「…なぁ、シャオさん」



溜め息を吐き、冷静に現状を整理するシャオを見つめ、ジャンは難しい顔をして口を開く。



「まだ兵長のことを信用してんのかよ」



「…どういう、意味?」



戸惑うシャオの肩を掴み軽く揺さぶると、彼女は悲痛に眉を下げる。ここ最近見慣れた表情だ。ふんわりとした笑顔が印象的だったシャオを、こんな風にしたのは間違いなくあの男だ。絶対に許せない。



「兵長は人を拷問にかけるのも殺すのも躊躇わないような奴なんだぞ!?俺は御免だ、人殺しなんて…もしあの兵長に殺せって命令されても出来るとは思えねぇ」



俺もだ、とジャンの意見に同調し立ち上がったのはコニーだ。



「従わねぇやつは暴力で従わせればいいと思ってんだリヴァイ兵長は。ヒストリアにやったみてぇに!」



「それも商会にはあんなにへりくだったのにですよ!抜け殻みたいになったヒストリアにはあんな脅し方をして…」



普段こういった口論になると仲裁役を買って出るサシャでさえも、鼻息を荒くしてリヴァイを抗議する。リヴァイの非人道的なやり方は、まだ幼い104期兵達の胸に不信感を募らせてしまったらしい。

これから一致団結しなければならないのに、困ったことになってしまった、とシャオは苦笑する。



『お前らは身を隠して葬儀屋を見張れ』



班を2つに分ける際、素っ気なくシャオに彼らを託したのはこうなった時の為だったのか。

今までのリヴァイだったらシャオを自分の後ろにつけていたはずだ。俺の後ろにつけ、金魚のフンみてぇに、と言ってくるリヴァイの表情を懐かしく思う。


傷ついた様子で、何も言えなくなってしまったシャオを…間に入って庇ったのは、アルミンとミカサだった。



「だめだよ!これからって時に気に迷いがあったら」



二人は知っている。リヴァイがシャオに向ける、深い愛情を。

あれはアニ拘束作戦を練るために、エルヴィン団長らと古城を訪ねた日のことだ。アルミンは帰り際にそれとなくシャオの具合を尋ねた。あいつは寝かせとく、とエルヴィンに言ったのは聞いていたが、作戦会議にも出れない程酷いのかと心配になったからだ。リヴァイは言葉を濁し、直に良くなるとだけ伝えた。



『そうですか…シャオさんに、お大事に、とお伝えください…』



しゅんとしてそう呟くアルミンと、俯くミカサ。暗い顔の二人をじっと眺めた後、リヴァイはフッと微笑んで言ったのだ。



『ありがとうな』



普段の彼からは想像が出来ないほどの優しい声と表情に、アルミンもミカサも目を瞬かせたものだ。この人はシャオを愛しているのだと、二人はその時に気付いていた。



「…私はあのチビの異常性には最初から気付いてたけど」



「み、ミカサ…」



相変わらずの酷い言い草にアルミンはガクッと肩を落とす。演技とはいえ審議所でエレンをボコボコにしたリヴァイを、ミカサも良くは思っていない。

しかし彼は壁外調査で自分を庇い、負傷した。



『自分を抑制しろ。もうしくじるなよ』



その上命令を無視したミカサを咎めたりもしなかった。エルミハ区に向かう馬車の上で、一言だけ声をかけられた。ただそれだけだ。
そしてリヴァイ班として同じ隠れ家で生活し、シャオと二人で話している時のリヴァイの姿も目にしている。馬鹿な男達はこういうのに鈍感だから気付かないだろうが、女の自分には解った。

リヴァイがシャオにだけ向ける、さりげない優しさが。

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