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晴れて恋人同士となった銀時とソーコだったが、二人が逢瀬を重ねられるようになるには幾つかの課題があった。
まずは、神楽の存在。
新八は実家の道場から通っているが、神楽は万事屋に居候しているため、家に呼ぶにはまずは二人の関係をカミングアウトしなければならない。
これが難関だった。
神楽はソーコを勝手にライバル視しているので、顔を合わせれば火花がバチバチと飛ぶ仲なのだ。簡単に、はいそうですかお幸せに、とはいかないだろう。
デートの帰り際、アイツらにも報告しておく、とは言ったものの、何とか穏便に済ませる方法はないかと考えたが、特に良い方法は思い付かないままかぶき町に着いてしまった。
銀時が万事屋に帰ってきたのは、辺りが夕餉の支度を始める頃であった。
「銀さんお帰りなさい」
そろそろ新八は家に帰る頃だ。
神楽は居間でアニメを観てゲラゲラ笑っている。
その隣で定春は寝ている。
神楽と一対一よりは新八が居た方が何かと都合が良いだろうと、銀時は新八をソファに座らせた。
その隣に銀時も座り、向かいのソファで寝そべってテレビを観ている神楽を待つ。アニメはエンディングの歌が流れ出した。
「?どうしたアルか銀ちゃん、ご飯作らないアルか?」
いつもならこの時間から晩御飯の準備を始めるのに、今日は新八まで引き止めて神妙な面持ちでソファに座っている銀時を見て、やっと何かがあったと悟った神楽は、テレビを消して姿勢を正した。
妙な沈黙に定春もうっすらと目を開ける。
時計の音だけがやけに響く、万事屋の一室。
「…おめーらに報告がある」
重苦しい口調に新八はごくりと喉を慣らした。
「銀さん彼女出来ました」
………。
「「マジでかァァァ!!!」」
一瞬間を置いて二人とも声を上げて驚いた。
銀さんに彼女!?
このニート侍についてきてくれるような菩薩のような御方が果たしてこの世に存在するのか、信じられないといった表情で凝視してくる二人の子供に、銀時は冷や汗を垂らす。
「誰アルか!?どこの馬の骨アルか!?ここに連れてくるヨロシ!!」
興奮して早口で捲し立てる神楽とは対照的に、開いた口が塞がらない新八は、目と口をパカッと開けたまま硬直している。
こんなに興味津々で来られると、更に言いにくくなるのだが…。
しかし、脳裏に浮かぶ愛しい女の姿に、銀時は覚悟を決めた。
「いやあの、おめーらも知ってる奴」
その一言で二人は知っている女の名前を適当に挙げ始める。
さっちゃん、キャサリン、「姐御」と神楽が言うと新八は即効で否定した。お通ちゃん、結野アナ、など芸能人まで候補に挙げてくるが、一向にソーコの名前は出てこない。
「えー、あと誰かいたアルか?下のババァアルか?」
「んなわけねーだろ!!」
「神楽ちゃんさすがにお登勢さんはないよ…。
あ、沖田さん?」
ピタッ。
沖田さん、の名前を出した瞬間銀時の動きが突然止まったので、もしやと思った新八は咄嗟に神楽の顔色を窺う。神楽は鼻をほじりながら、
「新八ィ、さすがにサドはないネ。サドが毎日隣に居たら命が幾つあっても足りないアル」
と、呑気に否定していた。
更に言いにくい雰囲気になったぞオイどーすんの新八これェェェ!!!
知らねーよ!!元はと言えばアンタが蒔いた種だろ !アンタがせっせと種まきに励んだ結果でしょーがァァァ!!
銀時と新八が目と目で会話をしている最中、神楽はもしソーコが銀時の彼女だったら、と想像していた。
銀時と並んで歩くソーコの姿。
金髪と銀髪、見た目も割りと整っている二人、身長差もちょうどよく、悔しいけれどお似合いだ。
しかし問題はそこではない。
『よォチャイナ…酢昆布焼きにきたぜィ』
ギャアアァァァ!!!
勝手に妄想して勝手に絶叫した神楽を見て、最早オッキーと付き合いましたなんて言える状況ではなくなり、神楽に伝えられないままその日は終わった。
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