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頬の傷跡はすっかり目立たなくなったが、一応白粉を塗った。紅も引き、少し伸びた髪はサイドアップにして髪飾りをつける。
私服の瑠璃色の着物は、肌が白いソーコによく似合っていた。

下駄をカランと鳴らしながら、屯所の門を通ろうとすると、見張り番の隊士が口をパカッと開けて凝視してきた。
何となく視線を逸らし、「出かけてきまさァ」とだけ告げ、足早に屯所を後にした。


本日は非番。
万事屋の旦那と遊園地に行く。






◇◆◇◆◇◆


松平からの直々の要請で、近藤と土方は急遽非番をとり指定された場所へ赴いた。
その場所は、大江戸遊園地。
何故こんな所に…?『奴も奴の企ても全て潰す』という、昨夜の話では要人暗殺的なもっと緊迫した内容だった筈なのに、昼下がりの遊園地にはほのぼのとした空気が流れており、怪しい人物など見当たらない。

二人共頭に疑問符を浮かべながら、首をかしげて待っていると、遊園地には似つかわしくない人物が肩を揺らして近付いてきた。
警察庁長官・松平片栗虎。
グラサンに歩き煙草でやって来た上司に、近藤は頭を下げると、早速今日の任務について説明を求める。

それに対し松平は無言で茂みの蔭に隠れながら、今回のターゲットを指差した。


もう標的は近くに居るのか?
緊張を走らせた二人は直ぐ様松平の指差す先を確認する。


そこに居た人物は…。




「おー栗子。ワリィワリィ遅れちまって、待ったァ?」


「全然待ってませんでございまする」



松平の一人娘・松平栗子と、最近出来たという恋人。清楚な栗子には似つかわしくないチャラチャラした男で、その姿を見るだけで松平の額に青筋が立つ。
既にライフルを片手に構え、準備万端の松平を見て、土方は愕然とした。



「待たんかィィィ!!お前何ィィィィ!?奴ってアレかァァ!?娘の彼氏ィ!?」


「彼氏じゃねェェ!認めねーよあんなチャラ男パパは絶対認めねーよ!」


「やかましーわ!俺はお前を警察庁長官なんて絶対認めねーよ!」


過保護な松平は、娘の栗子の事となると見境がなくなる。つい一週間前のえいりあん事件でも、娘の誕生日パーティーに遅れるわけにはいかないという理由で、ソーコが残っているのにも関わらずキャノン砲を発射させていた。その後ソーコに『とっつぁんなんて大っ嫌いでィ』と痛恨の一撃を食らっていたものの、未だ懲りていない様子。栗子の事となれば一般人でも暗殺対象になり得るのだ。
明らかにやる気をなくした土方を見ても、松平は気にする素振りを見せず、若いカップルの尾行を始めた。
そんなことをするから娘に嫌われるんだよ、と溜め息を吐きながら、先程から黙ったままの近藤の顔色を窺ってみれば、近藤は全く別の方向を見つめて固まっている。



「どうした?」


「と…トシ、あれ……」



近藤がわなわなと震える手で指し示した先に、恐る恐る視線を向けてみれば、そこにあった風景に土方は目を疑った。



金と銀。瞬間的に目に入った色だ。


待ち合わせたばかりの二人は僅かに緊張しているのか、ぎこちない会話を交わしながら、行き先も決めずに歩き出す。
あんなに着飾ったソーコを見たことがない土方は、知らない女を見ているような気分でそれを目で追っていた。

いつの間にあんなに仲良くなってたんだ?
万事屋の男と。


「トシ!?おいトシ!?気をしっかり持てェェ!!」



頭を棍棒で叩かれたような衝撃に耐えきれず立ち竦んでいる土方には、涙混じりの近藤の呼掛けさえも耳に入らなかった。



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