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ある日の真選組屯所。



「星海坊主?なんでィ?そりゃ」


冬だというのにアイスを頬張りながら、ソーコは客間を覗き見する隊士の山に混ざり、襖の隙間から中を見ようと目を細める。


「早い話えいりあんばすたーという奴ですよ。第一級危険生物を追い駆除する宇宙の掃除人です」


本日屯所を訪ねてきた男はその中でも最強とうたわれる掃除人で、いち掃除人でありながらあちこちの惑星国家の政府にも顔が利く大物である。

数多の星を渡り数多くの化け物を狩ってきた男。ついた仇名が星海坊主…生きる伝説である。


「それでその伝説が何故ここに?」


「なんでもえいりあんが江戸に逃げ込んだとか」


食べ終えたアイスキャンディーの棒を口にくわえたまま、興味深く星海坊主の姿を眺めていたソーコだったが、ちょうど星海坊主の頭の上辺りに掛けられていた時計が目に入る。

時刻は午前10時を示していた。


(やべぇ、土方に呼び出し食らってたの忘れてた)


10時に映画館の前集合、と昨夜風呂上がりに言われていたのを思い出したソーコは、いつの間にか後ろにも群がっていた野次馬を掻き分け、急いで屯所を出発する。
幸い此処から映画館まではそう遠くはない。
今日は非番ではないのできちんと隊服の襟を正し、ソーコは颯爽と歩き出した。



◆◇◆◇◆◇



映画館の前では何本目か解らない吸い殻を灰皿に押し付けた土方が、不機嫌な面持ちで立っていた。
早足で現れたソーコに気付くと眉間の皺を濃くさせる。遅ェ、と言いたげなのが表情で解る。


「すいやせん、屯所に客が来てたもんで」


強ち嘘ではない。


「客?誰だ?」


「星海坊主だか葱坊主だか何かそんなん」


「星海坊主ゥ?何だってそんな有名人が江戸に来てんだ?」


「なんでもえいりあんが江戸に逃げ込んだらしいんでィ」


そりゃあ、世も末だな。と、大したことでもないと言ったふうに土方は映画館の中に入っていく。
それをぽかんと見送っていると、土方はこちらを振り返った。


「なに突っ立ってんだ、早く来いよ」


「…映画館で警護でもやんのかィ?」


仕事で待ち合わせたはずなのに、土方は映画のチケットらしきものを手に持っている。因みに今流行りの映画『えいりあんvsやくざ』のチケットだ。物凄い数のえいりあんと物凄い数の竹内刀が闘うという、女子には到底理解ができない内容の映画だ。
困惑しているソーコを見かねて、土方はソーコの手首を引っ張ると無理矢理中へ連れ込んだ。


「仕事は昼からだ。俺これ観たかったんだよ、付き合え」


「…何であたいが。一ミリも興味ねーでさァ」


「馬鹿野郎、映画館は女と行くもんだろ?」


全く乗り気ではないし、土方の言っている意味も解らないが、要するに隣に座っていればいいだけなので、嫌々ながらもソーコは付き合うことにした。


隣同士で席に座ると、すぐに辺りが暗くなる。本当はパンフレットや菓子や飲み物も買いたかったのに、ソーコがギリギリに現れたため手元に何もない。土方は手持無沙汰なのか、自分の右隣に座るソーコの髪の毛をくるくると弄び始めた。
異性にそんなことをされたのは初めてで、ソーコは飛び上がって驚く。


「何すんでィ」


予告編が始まった劇場内は静かで、周りは突然声を上げたソーコに注目する。自分に集まる視線を感じ、ソーコはチッと舌打ちをした。


「…触んねぇでくだせーよ」


小声で注意すると、土方はフンと鼻で笑った。


「ガキ」


「………。」


帰ってやろうと思ったが、ちょうど真ん中辺りに座ってしまったので、出るに出れなくなったソーコは、もう寝てしまおうと目を閉じる。こんな日に限ってアイマスクを持ってきていない。しかし割りと何処でも眠れるソーコのことだ、5分も経てば規則正しい寝息が聞こえてきた。
こんな大音量の中でよく眠れるな…と感心しながらも、右肩に感じる重さに気を良くした土方は、どうしても観たかった映画を一人で満喫した。



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