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熱帯夜の真選組屯所。
こんな暑い夜は怪談話で涼むしかなく、特別ゲストを屯所にお迎えして、隊士たちは冷や汗を流していた。


「そしたらさァもう真夜中だよ。そんな時間にさァ、寺子屋の窓から赤い着物の女がこっち見てんの」


しーんと静まり返った部屋は薄暗く、真夏だというのに何とも言えない涼しさに満ちていた。
近藤も山崎も、皆食い入るように咄家である稲山を見つめている。驚愕のラストまであと少しだ。

「恐る恐る聞いてみたの、何やってんのこんな時間にって。そしたらその女ニヤッと笑ってさ」







「マヨネーズが足りないんだけどォォ!!!」





「「「ぎゃふァァァァァ!!」」」





大切なオチを台無しにした挙げ句、土方が突然現れて絶叫したことによって数名の隊士たちは恐怖のあまり腰を抜かしてしまった。腰を抜かした隊士の中には近藤も含まれていて、白目を剥いて泡を噴いている。
夜食である焼きそばには既にマヨネーズがかけられていたが、超がつくほどのマヨラーである土方はこれだけでは満足できない。


「副長ォォォォ!!なんてことするんですか大切なオチをォォ!!」

「知るかァマヨネーズが切れたんだよ!買っとけって言っただろ焼きそば台無しだろーがァ!!」


オチが聞けなくて文句を言い出す隊士たちを一喝し、くだらない怪談なんぞにはまる面々を一瞥すると、その中に小さな背中があることを、土方は見逃さなかった。
二ヶ月前の祭りで攘夷浪士に地球外の薬物を吸わされ、それからずっと屯所で療養していた、一番隊隊長。



「…テメーはさっさと部屋に戻れェェ!!」



久しぶりの一喝にビクッと身体を震わせると、ソーコは振り向きもせずに部屋を飛び出していった。
その小さい背中を見送りながら、この二ヶ月のことを思い出して、土方はため息を吐いた。


ターミナルで祭典が行われたあの日、からくり技師平賀源外の見せ物の途中に事件は起きた。
源外自体が息子を幕府に殺された恨みを持つ人間であったらしく、過激派攘夷浪士と手を組んで将軍暗殺を目論んでいたのだ。
会場は一時騒然となり、あちらこちらで爆発が起きる中、更に土方を襲ったのは、突如飛び込んできた信じられない光景だった。

此方に向かって駿足で向かってくるのは因縁の万事屋、坂田銀時。その腕に抱えている人間はー…

だらんと力をなくした腕を見て、ツーッと冷たい汗が背筋を流れたのを覚えている。


『おい!お前んとこの隊長さんだ!!』


いつになく緊迫した表情で銀時はソーコを土方に押し付ける。土方は目を見開き、この状況に何も言えずにいた。

あのソーコが、殺しても死ななそうなソーコが、死にそうな面で身動きひとつとれずにいる。


『倒れてるところ拾った、あとはそっちで何とかしろ!』


早口でそう言うと、銀時はくるりと背を向けて爆煙の中にまた戻っていってしまった。
万事屋の3人も来ているという情報があったので、あの眼鏡とチャイナを探しに行ったのだろう。

ぐったりと腕の中で大人しくしているソーコを、土方は暫く茫然と見下ろしていたが、やがて我に返ると、隊士にソーコを病院へ運ぶように託すと、自らはテロの鎮圧の為に真夜中過ぎまでターミナルに残った。



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