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桜の季節。毎年この時期、真選組は近くの公園で花見を行う。今年もいつものように場所取りを任された山崎と、絶好のサボりチャンスとして勝手についてきたソーコの二人は、一足先にシートを敷いて花見を楽しんでいた。
他の隊士は市中見廻りの後で来る予定だ。
シートにごろんと寝転がり、晴天を覆う薄紅の花を見上げ目を細めたソーコは、手元のお猪口から酒を啜る。
それを見て山崎は溜め息を吐いた。もう何度注意したことか。
「…ソーコちゃん、まだ未成年だよね」
その言葉は無視して空になったお猪口を差し出すと、山崎は渋々酒を注いだ。
ソーコの飲酒は、もう何度も注意したが聞かない。屯所でも宴があると酒を飲んでいるし、局長も副長も始めは注意していたが、もう諦めたらしい。
ソーコはしれっと飲み続けているが、ほんのり頬が赤く染まっている。既に徳利を一瓶空けていた。
近藤や土方が来る前に出来上がってしまいそうだ。
「あれ?オッキーじゃねぇか」
ふと声をかけられ、顔を上げると、そこには万事屋一行と新八の姉・お妙の姿があった。
「あぁ、万事屋の旦那。花見ですかィ?」
以前、近藤が決闘で敗北した事件で捜していた白髪の侍は、池田屋事件の万事屋の男だった、と土方から聞いていた。その場に居合わせなかったから解らないが、どうやら土方もこの男に負けを認めたらしい、との話は、屯所内でも話題になっていた。
その話を聞いてソーコも万事屋のことを気にはしていた…が、今は花見の最中だ。
「どうでィ旦那。一杯やりませんか?」
寝転がったまま盃を差し出すと、銀時はニヤニヤしながら近づいてくる。下心丸出しのだらしない顔とも言える。白い肌にほんのり赤みがかったソーコは、普段より色っぽく見えて目の毒だ。
ここは間に入らなければと山崎がソーコの姿を隠すように前に出る。そこで漸く山崎の姿に気がついたとでも言わんばかりに、銀時はゆっくりと目を向けた。
「ここは毎年真選組が花見をやってる場所です、悪いけど他の場所探してください!」
「まぁまぁいいじゃないのジミー、オッキーが良いって言ってんだからさ」
「誰がジミーだァァ!!地味からとったろ!地味からとったろそれェェ!!」
銀時が盃を受け取り、真選組のシートに勝手に腰を下ろすと、案の定万事屋の眼鏡とチャイナ娘、そしてお妙もズカズカと乗り込んでくる。
こんなところ副長に見られたらまた追いかけ回される…と、山崎は青ざめたが、ソーコは全く気にしていない様子で、酒盛りを始めた。
しかし、ここにソーコをよく思っていない人物が一人居るのを覚えているだろうか。
「なにヒロイン気取って銀ちゃんの横で寝そべってるアルか。そこ退くヨロシ」
剣幕でソーコの目の前に立ち塞がった神楽は、傘の先っぽをソーコに向け、子供ながらにドスの効いた声でそう言った。
突然喧嘩を吹っ掛けられ、普段なら軽く受け流すソーコも酒のせいか真に受け、眉を寄せて神楽をきっと睨み付ける。
「生憎こっちはそんなつもり毛頭ねェや。そう見えるってこたァあんたが勝手に負けを認めてるってことだろィ」
「なんだとこのメス豚がァァ!!」
戦闘種族・夜兎の本能のままに飛びかかる神楽を間一髪かわし、ソーコは体勢を整える。
酒のせいか一瞬くらりとよろけたが、流石隊長を務めているだけあり、スピードは負けず劣らずだ。
これは不味いことになる、と青ざめて間に入る新八と山崎だったが、そう簡単に止められる二人ではない。
この二人、後に永遠のライバルになるのであった。
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