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ー真選組屯所ー



「トシ、居るかぁ?」



副長室の障子の向こう側から聞き慣れた声が聞こえ、土方はくわえていた煙草を指に挟み、あぁ、とやる気のない返事をした。

年始の忙しさも落ち着いてきた今日この頃。
久しぶりの非番で、普段より一刻半は遅い起床となったが、まだまだ疲れが抜けず今にも落ちそうな瞼を無理矢理持ち上げる為に、丁度寝起きの一服をしていたところだった。

返事を聞いて障子の向こう側から軽く声をかけ、真選組局長・近藤が顔を出す。
自分より疲れている筈の近藤は、今朝も清清しい顔をしている。


「すまんなぁ非番のところ」


「いや…何かあったのか?」



本当に申し訳なさそうな顔をしている近藤を、とりあえず適当な所に座らせて、自身は未だ敷いたままであった布団の上に胡座をかく。
大したことじゃないんだが、いや、だからこそ非番の時に相談しようと思ったんだけど、と、一人でぶつくさ言っている近藤を怪訝な表情で見ていると、視線に気付いた近藤はハッとして意味もなく咳払いをした。


「そのー…なんだ、まぁ…話というのはソーコの事なんだ」


沖田ソーコ。
その名前を聞いただけでピクリと眉間に皺が寄る。
何せ真選組一の問題児だ。
剣の腕前も真選組一だと認めざるを得ないが、何せ性格がひん曲がっている。土方に至っては謎に命を狙われる始末。
彼女の素性を知らない者から見れば、真選組の紅一点、顔だけは綺麗に整っているためそう持て囃されもするが、一度でも彼女と関わった事があれば、目が合えば即刻逃げ出したくなるだろう。
サディスティック星から来た麗しき姫君。
バズーカを持って敵を追っかけ回したり、一番隊隊長という肩書きを使って平隊士を脅迫したり、やりたい放題だ。時には捕り物の最中に、その行き過ぎた行動で一般市民に怪我を負わせたり、建物を壊したりで上から何度か注意を受けている。
しかし真選組直属の上司である警察庁長官・松平片栗虎は、ソーコに異様に甘かった。
普通なら厳罰に処される筈の事例でも、ソーコなら軽い説教だけで済むのだ。
こういった依怙贔屓があるから組の中でも年少のソーコがふんぞり返って歩くような事態になるのである。



「また何かやらかしたのか?」



「いや、色々やらかしてはいるけど今回はそのことじゃなくてぇ…」



歯切れの悪い近藤の返事に土方は段々苛苛してくる。以前もそうだった。指名手配中の攘夷志士・桂小太郎を逃すまいと回りが見えなくなったソーコが、一般市民の車と正面衝突して相手が右膝を複雑骨折をした時も、近藤は言いづらそうに俯きながらこうやって土方の前に現れたのだ。今みたいに。
しかし今回は"そういう類"のことではないという。

何だってんだ、と土方が問い詰めると、近藤は恐る恐る口を開いた。


「なんつーのかなァ…ガキだったソーコもいつの間にか17だ、武州にいた頃は男と見分けもつかなかったソーコもいつの間にか立派な女性になったよ、っていう話!」

そう言ってガハハ、とわざとらしく笑う近藤に対し、土方はぽかんと目を見開き、珍しく言葉を失っている。余程予想外の話題だったらしい。
確かに武州時代よりソーコは女らしくなった。当たり前に身体は成長するものだ。昔はガリガリだったが、今は女性らしいシルエットになったし、隊服のショートパンツから伸びるしなやかな足は男所帯には目に毒だったりする。しかし外見がいくら女性のそれでも、ソーコの場合、中身が伴っていないのだ。それに、平隊士でソーコと喧嘩して勝てる奴など何処にもいない。



「…どうだか。アイツはいつまで経ってもガキのままだぜ」



「それがそうでもないんだよトシ!これは山崎からの要望で…」


「山崎ぃ?」



山崎退。真選組の監察方だ。
意外な人物の名前に土方は片眉を上げた。
年齢はソーコの一回り以上上だが、その地味さと頼りなさから、しばしば彼女のパシりに使われているのを見かける。
平隊士には割とクールなソーコが、山崎を見つけると玩具を見つけた子供のような表情になるので、彼女からすれば慕っているのだろうが、慕われた方は堪ったもんじゃない。
ソーコに捕まった日の山崎は、徹夜で密偵を行った日と同じ顔をしている。それぐらいソーコの相手はしんどい。
非番の日の山崎は、ソーコに見つからないよう、いつもの数倍気配を殺して屯所を後にしているのであった。


「…風呂上がりのソーコが夜な夜な部屋に上がり込んで迷惑しているからどうにかしてほしい、とな」



「………」




絶句。

その光景を頭に思い浮かべただけで、何だか嫌な気持ちになるのは何故だろう、と土方は余計にむしゃくしゃした。
土方が夜勤の日以外で夜ソーコに顔を合わせる事など滅多に無い。風呂は屯所内で唯一の女性であるソーコが一番先に入る決まりであるし、夕飯だって時間が合わない事が多い。部屋を行き来することなどは勿論無い。
仕事中でも何処でも寝てる彼女の事だ、当たり前に大人しく寝てるもんだと思っていたが、どうやら違ったようだ。
年頃の女が夜、男の部屋に上がり込んでいる。
局中法度に恋愛禁止などはないし、もしそこで何かがあったとしても口出しする必要は無いのだが。

酷く動揺している。

土方は気持ちを落ち着けるために吸いかけの煙草の煙を肺一杯に深く吸い込んだ。



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