▼
先日、宇宙海賊“春雨”の一派と思われる船が沈没した。なんと奴らを壊滅させたのはたった二人の侍らしい。この二人のうち一人は攘夷党の桂だという情報が入っている。
春雨の連中は大量の麻薬を江戸に持ち込み売りさばいていた。問題はここからだ。
その麻薬の密売に幕府の官僚が一枚かんでいたとの噂がある。麻薬の売買を円滑に行えるよう協力する代わりに、利益の一部を海賊から受け取っていたというものだ。
真偽のほどは定かじゃないが、江戸に散らばる攘夷派浪士は噂を聞きつけ、「奸賊討つべし」と暗殺を画策している。
真選組の出番だ。
◇◆◇◆◇◆
朝の会議を終え、早速幕府の高官である禽夜の屋敷へ身辺警護の任務でやって来たのは、近藤、土方、そして一番隊の面々である。
焦臭い一件での警護とあって、中庭にていつも以上に真面目に取り組む隊士達を他所に、いつも通りアイマスクをつけて堂々と居眠りをしているのは、一番隊隊長・沖田ソーコだ。
桂も絡んでいる一件とあり、ソーコは謗らぬ顔で市中見廻りに行こうとしたが、土方に捕まってしまった。
幕府の高官の警備だ、ここは局長、副長、そして真選組の顔である一番隊が出向くのが礼儀だ、と。
半ば引き摺られるように連れてこられて、更に仕事が退屈な身辺警護とあれば、ソーコが寝るのは当たり前のように思えた。
全く隠れもせず縁側で堂々と居眠りをするソーコを見て、土方は溜め息を吐いた。
「ったくこいつは…寝てる時まで人をおちょくった顔しやがって」
アイマスクに書かれた目と向き合い、青筋を立てながら呟くと、隣にいた近藤は豪快に笑う。
「ソーコも肝が据わって来たな!命懸けの任務でこうも堂々としてくれるなんて頼りがいがあるじゃないか!なァトシ!?」
「甘いんだよ近藤さん。女だからって好き勝手やらしてりゃ、いつか足元掬われるぜ。こいつに至っては腹ん中真っ黒だかんな」
「いやいや、ソーコはよくやってくれてるぞ?江戸に出てきた頃に比べれば見違えたもんだ」
あの頃を思い出すように、近藤は目を細めて穏やかに笑う。
局中法度が出来るまで、血の気の多い者ばかりの真選組はまとまりがなかった。中でも反抗期真只中のソーコの荒れ様は目を見張るもので、男所帯に女一人という逆境をものともせず、隊士と殴り合いの喧嘩をしたり、市中見廻りでは気に入らない一般市民をフルボッコにしたり、街中の建物を壊したり、それはそれは手に負えないバラガキだった。
土方は何度ソーコに拳骨をお見舞いしたか、数えきれない。近藤も、何度上に頭を下げたか知れない。あの頃は、ソーコの仕出かした不祥事の尻拭いばかりしていた気がする。
まだ年若い娘に、剣の腕だけを買って一番隊隊長を務めさせた近藤は、それなりに責任を感じており、強く叱ることは出来ずにいたが…。
「ソーコも今では立派な一番隊隊長だ!現場での指揮も的確、そして隊士の信頼も厚い!」
「どーだかな、オイ起きろコラ」
久しぶりに拳骨をお見舞いすると、ソーコはのっそりとアイマスクを外す。寝ぼけ眼で土方を見上げると、ボリボリ頭をかいた。
非番の日の朝と同じような全く緊張感のない様子に、流石に黙ってはいられなくなった土方は語気を荒らげる。
「てめーこうしてる間にテロリストが乗り込んできたらどーすんだ?仕事なめんなよコラ」
その言葉に、寝起きのソーコもキッと目を吊り上げた。
「あたいがいつ仕事なめたってんです?」
こう見えて根は真面目なソーコだ。
いつもの行き過ぎた行動も、仕事に対して真っ直ぐに取り組んでいるからこその無意識によるものだ。
市中見廻りや身辺警護では気を抜いてしまうところはあるが、なめていると暴言を吐かれて黙っているわけにはいかない。
「あたいがなめてんのは土方さんだけでさァ」
「よーし!!勝負だ剣を抜けェェェェ!!」
徐々にヒートアップしていく二人を諫めたのは、傍に居る近藤ではなかった。
→
back