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日の光が眩しくて、目を細める銀時の横顔を、ソーコは黙って見つめていた。



「エンはもっと馬鹿でもっと煩くて、すぐ泣くわすぐ怒るわ、ゲラゲラ笑うわ…。オッキーと全然似てねぇよ。おんなじ顔してっけどな」


ソーコは目を見張るが、銀時は構わずに続ける。



「銀さんがエンを好きになったのは十三歳ぐれぇかな?派手にやられた俺を一晩中介抱してくれた。誰かが死ぬのを人一倍恐れてたエンは、俺が死なねぇようにずっと傍で見ててくれた…」


今思えば、彼女は誰に対してもそうだった。
失うことを恐れていた。
仲間が死ぬと三日三晩泣き続け、戦が激化していくと次第にその涙は追いつかなくなって、最後の方は抜け殻のようになってしまっていた。
銀時やその仲間は彼女の心を取り戻そうとしたが、その前に彼女自身の命を奪われてしまった。



「…でもよぉ、悲しいことにエンは高杉とデキてたんだ。銀さんの初恋は無惨に散ったね」


大袈裟に溜め息を吐き、あの頃に思いを馳せる銀時の顔は、いつもと同じで優しかった。
話を聞いて、ソーコの知らないエンという女が幻影となり脳裏を舞う。無邪気に笑う自分と同じ顔を持つ女。少年時代の銀時や高杉が恋をした、戦場に咲く一輪の花。


「ある戦でエンは死にかけの天人を助けようとした」


その一言で、ソーコは一瞬息を止めた。
攘夷戦争は国を護ろうとした侍と、宇宙からやってきた天人との戦だ。攘夷志士は異形の天人と命を削って戦った。

それを助けようとした記憶の中の女は、晩年にはもう心が壊れ、痩せ細っていた。


「それで高杉とえらい喧嘩になってなァ。それでもエンは天人を介抱するって離さねぇ…もう、誰も死なせたくなかったんだ、アイツは。
もう、頭、おかしくなっちまってて」


そこまで話して、ついに銀時の瞳が翳る。


「俺も若かったから、高杉が正しいと思った。天人は殺しちまえばいいって、思ってた。
だから、エンを放って俺達は先に拠点を目指した」


今でも悔やんでいる。その時の行動を。
高杉は余計にだろう。



「ちょっと進んだら頭が冷えたみてぇで、皆すぐに引き返した。けど、戻ったら…エンは天人の軍勢に囲まれてて、俺たちの目の前で首を跳ねられちまった」



『お前を、一人にしちまって』



あの廃ビルで掛けられた言葉の辻褄が合い、ソーコは息を漏らす。
一人にしなければ。


まだ、生きていたのかもしれないのに。



「一応こんな感じなんだけど、もっと知りてぇ?エンのこと」


銀さん何でも答えるって約束したからなぁ、と笑う銀時に、すぐに返す言葉が見つからない。
傷を抉るようなことをしてしまった。
愚かなことを聞いてしまったと、ソーコは手で顔を覆う。


「…すいません、旦那」


震える声で謝罪し頭を下げるソーコを見て銀時はぎょっとする。


「ど、どどどどーしたオッキー!?何泣いてんだァ!?」


「あたい、自分のことしか考えねぇで、すいやせん…」


「だから何が!?何で謝ってんの!?」



隣で女の子が泣き出し、銀時はどうして良いのか解らず、とりあえず華奢な肩に手を置いた。

エンという女との間に何があったのかは知らなかったが、きっと良い思い出ではないのだろうということは予想出来ていた筈だ。寝言で、許してくれ、という程。悪かった、ともういない人物に頭を下げる程。

それなのにそこを掘り下げて聞いたりなんかして、自分の愚かさに嫌気がさす。


「…なぁ、何で泣いてんの。言っとくけど俺、もう乗り越えたかんね、アイツのことは」


ーーーだから今話したことは。



「ぜ〜んぶ、思い出の話だろ?」




どんなに悲しいことでさえ、時が経てば思い出に変わる。乗り越えるのに時間は掛かったが、もう魘されたり、ましてや泣いたりなんてしない。



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