▼3/5

腰に差してある菊一文字の柄を握り締め、真っ直ぐな瞳は前を向いていた。それは何かを覚悟した表情に見えた。

「土方さんは屯所にガキ共を送ってくだせェ。あたいはもう一回行ってきまさァ」


あの万事屋を追って煉獄関に。

ピクリとこめかみに筋を立てた土方の気配に気付いたが、何も言わずにその場を去ろうとする。

思わず土方はソーコの手首を掴んだ。


「!何すんでィ」


細い手首は力を込めれば簡単に折れてしまいそうだ。こんな細っこい腕でこいつは刀を持って闘っているのかと思うと、急に恐ろしくなった。いつも生きるか死ぬかの瀬戸際に身を置いているこの女は、真選組一の剣の腕前を持ちながらも、目を離せば簡単に殺られてしまいそうな、ただの女に見えた。



「……どいつもこいつも…何だってんだ?こんなもんのために命かけるなんて大したバカヤローだ…」



ぼそりと呟くと、ソーコは依然意志の強い目をして此方を見つめている。


行ったら死ぬ。行くな。


言葉が出てこない土方の瞳を見つめているだけで、この人が何を言いたいのか簡単に解ってしまう。
長い年月を共にして、いつしか言葉がなくても通じる関係性になっていた。

自分を心配して引き止めてくれているんだと、皆が恐がるこの鋭い眼差しはこんなに優しいのに。



「すまねェ、土方さん」



他人の心の動きに敏感なソーコでも、実は読みとれなかったことがあった。それは土方が、万事屋の男に対して強い嫉妬をしていること。

何故自分ではなく万事屋に頼んだのか。
煉獄関が幕府絡みの黒幕だとはいえ、近藤さんにも自分にも相談することなく、あの男の元へ行ったのか。
それがどうしようもなく悔しかった。

万が一ソーコが直々に相談にきたら、何かしら対処してやることなんて簡単なのに。



「あたいもバカなもんでさァ」




そう言って悲しい程綺麗に笑ったソーコの手を、土方は離すしかなかった。







◆◇◆◇◆◇




急いで煉獄関にやって来ると、闘技場は歓声に包まれていた。息を弾ませながらソーコは最前列へ割り込む。

リングの中で鬼が次々と侍を亡き者にしていた。
虫を殺すように簡単と。
大きな金棒を振り回せば、侍たちは血を噴いて転げ回る。


「ひでぇ…」


こんなに近くで観ると死臭が直に感じられて、思わず顔を歪ませる。

鬼道丸を背中から一突きで殺害した、新たな煉獄関の帝王・鬼獅子。正体は人間ではなく「茶吉尼」という天人で、「夜兎」「辰羅」と並ぶ武を誇る傭兵部族だ。

ふと会場を見回すと、見慣れた銀髪が目に入る。
リングのすぐ横、出番を待つ侍の中に彼はいた。

今まで見たこともないような表情をしている。
笑みも怒りもなく、目はしっかりと開けられているが、瞳は冷たい色をしていた。殺気の込められた目。

あの目なら知っている。
人斬りの目だ。

自分もきっとあの目をしている時があるから解る。



「旦那ァ!!」



轟く歓声の中、声など届かないと思っていたが、銀時はすぐに此方を向いた。ソーコの姿を見ると、すぐに柔らかい眼差しになった。


何故か、どきん、と心臓が鳴る。


ソーコは道信の形見である鬼の面を銀時に向かって投げると、それを手に取った銀時は一瞬呆然としたが、ソーコの意図を把握すると、すぐにその面を顔に付ける。


弔い合戦の始まりの合図となった。



back
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -