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ほぼ三人同時に目玉に気付いたが、一番早く絶叫したのは、男の癖にこの中で一番ビビりな新八だった。

ぎゃあああぁ、という大音量の悲鳴が狭い小屋の中で反響すると、新八は徐に両脇の美少女二人の髪の毛を鷲掴みにし、床に叩き付けた。
そして自身も床にダンダンと額を打ち付けながら、スンマッセンとりあえずスンマッセンマジスンマッセン!と意味不明に謝り続けていたら、此方を凝視していた謎の目玉はいつの間にか姿を消していた。



「アレェ?…いない」



ホッとするのも束の間。
次に新八が遭遇したのは、両隣で気を失ってしまったか弱い二人の少女の生ける屍であった。







◇◆◇◆◇◆◇◆






翌朝。


「あの〜どうもすいませんでした〜」


昨日の万事屋のように、中庭に逆さ吊りにされた天人。幽霊の正体は、地球でいう所謂蚊のような天人だった。寝込んでいた隊士たちは皆此奴に血を吸われ、貧血で倒れていたらしい。なんせ人間と同じくらいの大きさなのだ。恐らく大量に吸われたのだろう。

今日から復帰することになったソーコは、久しぶりの隊服に袖を通していた。
額には冷えピタ。
これは熱があるからじゃない。
昨日、新八に髪を鷲掴みにされ頭を叩き付けられるという醜態を晒してしまったことにより出来た、たん瘤を冷やす為だ。


「沖田さんほんっとスンマッセン!マジスンマッセン!!」


今度はソーコに頭を下げる羽目になった新八。

あの天人より何十倍も恐い。


「気にすんな、眼鏡。その眼鏡100個分のホームランバーで許してやるぜィ」


さァ買ってこい、と無表情で言われてしまえば、とりあえず駄菓子屋に向かわないわけにはいかない。

青ざめた顔で屯所の門を出ていく新八の背を見送る。そして、報酬が貰えるまで帰るつもりがなく、縁側に横になっている銀時を振り返ると、ツカツカと歩み寄った。

近づいてくる影をぼんやりと見上げる銀時は、太陽の日差しが眩しくて眉を寄せた。
日光を反射しきらきらと光るソーコの金糸の髪が、緩やかな風に揺れている。


「旦那」


一歩と無い距離まで近付いて、ソーコは銀時の顔に影を作る。女の顔を下から見上げるなんてあまり無いことで、銀時は呆けたような表情で、神妙な面持ちの彼女が何を言い出すか、ただ待っていた。
銀時の横には土方が座っている。煙草をふかし、復帰したばかりのソーコを横目で見守っている。見守っている、とは少し違うかもしれない。いけ好かない万事屋に何を言うのか聞き耳を立てているのだろう。


ソーコは深く息を吸い、吐いた。


そして……。





「…あたい、もう治ったんで。
安心してくだせェ。」





それを聞いた銀時は二、三度瞬きをすると、見たこともない優しい表情で顔を綻ばせた。
反対に、何故この男にそんな報告をするのか解せない土方は一転して険しい表情になる。

本当は、高杉との関係、エンという謎の女のこと、訊きたいことが山ほどあった。が、今その話を持ち出せば鋭い土方は徹底的に取調べようとするだろう。出来ればそれは避けてあげたい。

あの時自分を助けてくれたのは恐らくこの男なのだから。


(…これで借りは帳消しですぜ、旦那)


心の中で呟いて僅かに微笑むと、銀時はまた笑った。



「あァ、良かったな…オッキー」






二ヶ月近く自分を苦しめていた悪夢に、
やっと解放される気がした。



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