アーロン夢
第三者の使用人視点




少し前に女王陛下に雇われたアーロン様は、とても素敵な男性でした。
頭脳明晰、容姿端麗性格も良し。
ルカリオという弟子を連れていて、陛下に見初められた腕であっても傲らず、鍛練を忘れない。
加えて紳士、こんなに完璧で素敵な男性そうそういない。
この城に滞在するのは屈強な兵士か細い貴族のみ。
だから同僚を中心とした異性の使用人から、密かにモテていた。
けれど彼に会う機会があまりなかった。
彼はお姫様付きの護衛なのだから。
理由は多分、万一人質に取られる事がないようにということと、将来隣国へ嫁ぐことが決まっているから。
外交手段として用いられる古典的な手法の一つ。
それと、陛下自身が身を案じていらっしゃる……といったところか。
だから彼を目にすることができるのは、姫様の側仕えという数少ない者だけ。
私のような下働きがお会いできるなんて、夢のまた夢だ。

でもアーロン様はルカリオと交代で護衛に付き、空いた時間に見回りや鍛練を行っているので、実は目にする機会は少なからずある。
ただ、遠方から見つめるだけしか叶わないけれど……
城の兵士が見張りをしているので、見回りよりも鍛練に充てる時間の割合は大きい。
そしてアーロン様がよく、裏庭で鍛練を重ねていることを知っていた。
こんな下働きで、私の存在すら知られていないだろうけど、ずっと見つめていたいと思うそれは、きっと恋だ。
かといって側にいたいわけではなく、見つめているだけで充分な感情だった。
顔も知らない人から告白されて困らせるのも嫌だった。



日が昇りかけている6時、彼の朝は早い。
まずは走り込みをして、精神統一に入る。
目を閉じて瞑想する。
毎日同じことの繰り返し。
稀にある二人同時に休みのが取れたときは、組み手を行っている。
集中なさっているときの横顔は格好いい、なまじ整っているから余計に。

このままずっと(永遠は無理だろうけど)続けば…と思っていた。






いつからだろう。
それだけでは物足りなくなったのは。
胸のうちに収まり切れない感情を吐き出したくて仕方なかった。
たとえ私のことを知られてなくても、お目に掛かれるならそれでよかったはずなのに。
なんて浅ましい……私はただの使用人に過ぎない。
――…そもそもアーロン様には想い人がいる。
口には決して出さないけど、見ていたら分かる。
彼女を見る目は見守るものから、優しさを含んだものになった。
確かにあの方は、性格の面が庶民的というか……王族からしたら変わってるかもしれないけど……それは人を惹き付ける何か。
加えてスタイルも良くて美人、まさに美男美女のカップル。
彼と彼女ほど、お似合いなカップルはいないと思う。
あの方は婚約者がいるという理由で、アーロン様のことは意識されてないみたいだけど……確実に惹かれあっている。
ライバルが同僚達ならともかく、お姫様だなんて勝ち目がなさすぎる。

でもずっと遠くから見ているうちに思った。
お姫様は国を思い憂うことで、アーロン様を恋愛対象として見ることすら出来ない。
アーロン様も身分の差が壁となって、そういう風に考えないようにしている。
最も近くて最も遠い距離にいる二人がもどかしいとさえ感じた。
両想いなら伝えてしまえばいいのに……
そしたら私の感情も報われるのだ。
けれど二人は決してお互いを恋愛対象とかたくなに認識しようとしなかった。
それは庶民の私には理解できない、施政者としての何かがあるのだろう。
到底理解したくもないけれど元のように見ているだけなんて、今となっては出来ないから。

苦しみししか与えないといのならば、



紙にくるんでごみ箱に捨てましょう



いつか輝かしい思い出だと思える日まで





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