レッドがマサラに戻ったのはチャンピオンになったあと。
マヨとの約束を守ったことを証明するため。
何より自分に対する枷がなくなって、ようやく彼女に胸を張って戻れる気がした。
……しかし、マヨの姿はマサラのどこにもなかった。


「“マヨは亡くなった――…”」


それがマヨに会いに行ったレッドが聞いた、初めての言葉。
両親が言うには、数ヵ月前に発作が起きてそのまま……らしい。
レッドは信じられなかったが、案内された墓所を見てレッドは崩れ落ちる。
そこに刻まれた名前は確かに、病気がちなお隣さんの名前。
彼女の両親にさっき渡されたレッドに渡ることがなかった宛先だけの切手も貼られていない手紙の束。
泣き崩れてレッドは後悔する。
なぜ、下手な意地を張らずに素直に会いに来なかったのか。
どんなに嘆いたって、もう遅い。
彼女はもう――…どこにもいない。


「ウソだろ…?マヨ」


誰でもいい、お願いだからウソだと言ってくれ。
帰るのが遅くなってしまったオレに拗ねたマヨが仕組んだイタズラだって。
元気になったマヨがひょっこり顔を出して「レッドのバカ!ずっとずっと待ってたんだからね!」なんて言ってくれる。
だって言ったじゃないか。
去り際に「ずっと、待ってる」って言ってくれたじゃないか。
なのにぜっかく帰ってきても、マヨがいないんじゃ意味ないだろ。
お前がいてくれなきゃダメだって、どうして気づかないんだよ!
マヨが応援してくれてるって後押しがあったからオレは今まで頑張ってこれたんだ。
なのに、どうしてお前が――…!


「うわあああああああ……!!」


旅でさえ、つらいことがあっても今まであっても泣いたことがなかったのに。
レッドは、知るには遅すぎた結果に堪えきれず、涙を流した。
いつか彼女が言っていた。

「天を仰げば、涙は出ないんだよ」

ぼろぼろと零れる涙を止めたくて、教えられた通りに天を仰ぐ。
でも涙は止まっても、視界は滲んで歪んだまま。
彼の心情とは裏腹に、晴れ渡る青空が眩しすぎてレッドは視線をそらす。
前を向けば墓標、嫌でも入る彼女の名前……それも次第に歪んで見えなくなる視界。
手元に握りしめられていたままだった封筒の束の一つに手を伸ばす。
中の手紙には、レッドが今まで送った手紙の返事が綺麗な筆跡で書いてあった。
それを一番初めから、ゆっくりと読み出す。
だが一番最後だけ、これまでのように手紙の返事ではなく、彼女の思いがつづられていた。

自分はもう、長くないこと。
風邪で持病が悪化してしまったと。
レッドとの約束を果たせなくて残念だ、とごめんなさいと一緒に添えられていた。
レッドのチャンピオン姿が見たかった。
でもきっとレッドは約束を守ってくれるから心配はしていないし、心残りもない。
そして文章の一番最後に綴られた一文がレッドをひどく動揺させた。


「”今までありがとう、レッドのことが好きでした”」

「ずるいだろ……マヨ…」


言い逃げはないだろう。
自分だって彼女のことが好きだったのだ。
旅から帰ってきて、これまであったことを話して……最後に伝えるつもりだったのに。
伝えたくてもマヨがいないんじゃ、自分はどうしたらいいんだ。
ああ、行き場所を失った恋心がさまよって泣いている。
今度、今度こそと今の関係が変わることが怖くて先延ばしにしていた自分も悪い、けど……誰がこんなことになるって想像できるんだよ!

その場はただ黙って泣くことしかできなかった。
数年経った今は、気持ちの整理もできて落ち着いてはきている。
でも、マヨの前に立つだけで涙腺が緩むんだ。
マヨは「男の子は強くなきゃね」って話しただろ。
レッドはその言葉を守って、これまで誰にも弱さを見せず、泣くこともせずに頑張ってきた。
だから――…君の前くらいなら泣いたっていいだろう?


「オレもマヨが好きだったよ」


それは一年に一度しかこぼさない、
レッドの、唯一の本音。





オレはようやく気付いたんだ。
君はオレが悲しむことを望んでいないから、送ることのない手紙に想いを託したんだって。
だからマヨを失ってどれだけ悲しくても、オレは前に進むよ。
それが君の願いでもあるんだから……




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