「えっと……ごめん、誰だっけ?」
五年くらい久しぶりに再会した幼なじみの第一声に、私はプチリときた。
いや、かなり。
「なんて……」
「…ピクシー、おうふくビンタ」
「いたっ!ちょっ、止めろよ!ニョロ!」
「ブーバー、スモッグ!」
スモッグで姿を暗ませて、私は逃げる。
サイドンのあなをほるでひたすら、ただ進んだ。
だって五年ぶりとはいえ、あれはない。
いくらレッドが鈍感で馬鹿でも、それだけは許されない。
しかも私とレッドは幼なじみなのに。
そんな彼の久しぶりに聞いた言葉が「誰?」じゃ、堪える。
というかもうすでに泣きそう……
ひどい、ひどすぎるレッド。
どうして気付いてくれないの。
別に整形とかして、大幅に変わったわけでもない。
髪型を変えて、少しだけど覚えたメイクをしてるだけなのに。
そんなに私はレッドの中で、存在が薄いってこと?
隣にいたグリーンや、ブルーも目を見開いてた。
私の容姿にじゃない、レッドの言葉にだ。
しかも好きな人ならなおさら。
こうかはばつぐんだ!
誰も知らない、森の奥の少し開けた私のお気に入りの場所。
ポツンと切り株に座る。
リピートされるレッドの言葉。
涙がひとつ、零れて落ちた。
「レッドの馬鹿!あほ!鈍感!デリカシーなさすぎ!」
「誰がデリカシーないって?」
「!?」
ちょっ、どうしてレッドが……
聞きたいことが山ほどある。
ていうか、
「どうしているのっ!?」
「ブルーが多分ここにいるって言ってたからさ」
そっか、ブルーには教えたんだっけ。
マサラで一番お気に入りのここを……見渡せる少し小高い丘。
星に最も近い場所。
どうせレッドのことだもん。
私が怒ってる理由も分からずに、二人に怒られて来たに決まってる。
レッド、あなたはそういうところだけ鈍いから。
「帰って」
「は?」
「ほっといてよ」
「何で」
「…ほっといてって言ってるでしょ」
「嫌だ、怒ってるのか」
「あんたには分からないわよ」
「どうして」
「だってレッドは馬鹿だもん」
「じゃあ聞くけど……お前オレが追ってきた理由分からないだろ」
「どうせグリーンとブルーに言われたんでしょ…」
「違う」
「…え?」
二人に言われて来たんじゃないの?
てっきりそうだとばかり……
それはさすがにレッドに失礼か。
じゃあなんで?
理由が分からない。
「マヨが勘違いしてるから」
「は、勘違いとか」
「あるよ。オレは誤解を解きに来たんだって」
「ご、誤解?」
「ああ、マヨお前オレの冗談真に受けちまっただろ」
「冗談!?」
あれ冗談だったの!?
だって、誰?って……
すごくショックで、
レッドの顔が見たくないくらいに……まさか冗談で誤魔化すつもりじゃ。
「確かに一瞬誰か分かんなかったけど、すぐに気付いたって。
ちょっとイタズラしてやろうと……あとで二人に呆れられたよ」
「っアホレッド!私がどれだけっ……」
「……マヨ、お前泣いてるのか…?」
レッドの言葉に、伏せていた顔を上げてしまったことに気付く。
慌てて涙を隠したけど、すでに遅かった。
彼が戸惑っているのが分かる。
だってこれまで一度もレッドの前で泣いたことはなかったんだから。
ずっとずっと隠してきた弱虫な私、レッドだけは見られたくなかったのに……
これまでの努力が水の泡だ。
「、ごめん……そんなに傷つけたなんて思わなかった。
……マヨなら冗談で怒って、笑って許してくれると思って…
でもグリーンは、マヨのことが気になってたみたいだったから大丈夫だぜ!」
「……何が」
「グリーンはきっとお前のことが好きだって話」
一体何を言ってるの?
私がグリーンを好き、だと?
必死にフォローしてるつもりだろうけど、違うよレッド。
勘違いしてる。
私の好きな人は、グリーンじゃなくて……!
「――…全然、分かってない!」
私の好きな人は、
「私はレッドが好きなのに!!」
レッド、アナタなんだよ?
この台詞だけはレッドを見て言った。
ちゃんとした形で言いたいのに、こんな、流れだけで……
言った瞬間顔が熱くなって、咄嗟に反らした顔。
レッドはイマイチ理解できていないのか、瞬きするだけで身動き一つしない。
……ちゃんと聞いていたのかな?
「レッド?聞いて……」
「……マヨがオレを?グリーンじゃなくて?」
「だからそうだって言ってるじゃない。
じゃなきゃこんなに落ち込んでないってば」
「オレ……グリーンのことが好きなんだとてっきり……
――なんだ、遠慮する必要なかったじゃん」
「―――遠慮?」
「マヨ」
「レッド…?」
「オレもマヨが好きだよ」
レッドは私を抱き締める。
私の目尻に浮かぶ涙を掬うと、目の前がレッド一面になった。
「やっと帰ってきたわね。
あの様子じゃようやくくっついたってことかしら」
「みたいだな。
あいつはマヨがオレを好きだと勘違いして踏み出せなかったようだが」
「二人ほど鈍感な人はきっといないわよね」
「ああ」