スペ設定
無糖でシリアス
「なあマヨ、もう泣くなよ…」
「…うん、分かってる……よ」
日課の修行で今日はイエローに手伝ってもらって、トキワの近くまで送った帰り道。
マサラの公園のベンチで泣いている彼女を見つけた。
友達でも放ってはおけないけど、好きな女の子なら尚更で。
恐る恐る声を掛けたら、顔を上げて目の腫れた瞳と視線があう。
泣き腫らした姿はとても痛々しい、思わず眉間に皺が寄った。
慰めようと隣に座ったのはいいが、彼女がなぜ泣いているのか理由を知らない。
聞いても泣いてばかりで教えてくれない。
これじゃどうすることも出来ないと肩を落としながら、ずっと隣に居座り続ける。
が、20分以上経過して流石にオレもため息を零した。
何も出来ない、慰めも出来ないとかオレ的にいたたまれないんだけど…
せめて一言でもいいから理由を知りたい、これじゃ同じ立場に立つこともできないだろ。
そう訴えたら、マヨは沈黙の後にポソリと自然に漏らした。
まるで息を吐き出すみたく、けれどオレに衝撃を与えるもので。
できれば、それをマヨ自身の口から聞きたいものではなかった。
「私、フられちゃった…」
「フられた…マヨが?」
「うん…」
なんだ、マヨに好きな人がいたのかよ。
オレちっとも知らなかった……自惚れじゃなく、マヨの友達の中で一番仲が良かったから。
そんな相手がいたなら、教えてくれるのだとばかり思っていた。
そして相談も持ち掛けないのは、特定の人物がいないのだろうと想像して、勝手に傷付いて………バカみたいだ。
告白したのか、と訊ねたら違うと返ってくる。
どうして、と口にする前にマヨは涙声で理由を告げた。
「その人には好きな人がいるの」
「――もしかしたら勘違いかも」
「ううん、女の子が一緒にいるところを見ちゃったもん」
好きな人に想い人……今のオレには痛いほど理解できるそれ。
ああ、いっそのことオレもマヨみたいに泣けたらいいんだけど、な。
でもオレのちっぽけなプライドがマヨの、好きな子の前で弱い所を見せるのを拒んでいる。
泣くことも笑うこともできず、オレは曖昧な表情を作る。
もしグリーンやブルー達がいたら痛々しいとでも言うのだろうか。
必死に笑顔を作ってるつもりだけど、多分微妙なはずだ。
けどマヨはそんなオレの表情も気付かない。
顔を伏せて流す涙が純真で綺麗だと思う。
……それがオレ以外のやつの為だと思うと、どうしようもない感情に駆られてしまうけど。
「……でも、マヨはそれでいいのか?」
「苦しくて辛いよ。でもフられるって分かってて告白して傷つくのは怖い。
……私のこと、軽蔑するでしょ。弱虫って」
「そんなことない。
誰だって傷つくことは怖いと思う。
それを恐れて前に進むか立ち止まるかは、人しだいだけどな」
まるで自分に言い聞かせているようだと、言い終わって嘲笑する。
傷つくことを恐れて踏み出せない……オレもそうだ。
わずかな繋がりが解けまいと四苦八苦して関係を繋ぎ止める。
ここで告白しても……この関係に戻れないことだけは明白。
進むか止まるか、今のオレにどちらが最善かなんて分からない。
息を飲んでマヨの答えを待った。
「私は、今の関係のままでいたい。
話すことも気まずくなって見つめるだけになるくらいなら、終わらない恋で……このままでいたい」
「…そっか……」
「弱いって思ってくれてもいいよ。
私は絵本に出てくるお姫様じゃないし、できた人間でもないから」
「いや、マヨは強いよ」
「……どうして?」
「だってお前、その人の前に堂々と立てるんだろ?
苦しくても正面切ってその人を好きだと思う、って羨ましい、かな」
「……私はレッドが羨ましいよ」
ポツリ呟くとまた啜り泣き始めたマヨが痛々しくて、どうしようもなく悲しくなって、色んな想いが錯綜する。
どさくさに紛れて触れたマヨは華奢で女の子の感触だった。
「今日は胸を貸してやるから」
だから泣くなら、例えオレの為じゃなくてもオレの胸の中がいい。
ズルくてごめん。
でもオレだって人間だから。
マヨが傷付いて悲しんでることは知ってるけど、たまには我が儘に付き合ってくれよ。
オレだって悲しくて辛いんだから、さ。
「好きだった、マヨ」
今のオレの精一杯な呟きは、彼女の耳に届くこともなく風に攫われた。
レッドはマヨが好き。
マヨもレッドが好き。
お互い別に好きな人がいると勘違いして、生まれた誤解。
という設定(ォィ!