「サトシって……好きな子いるの?」

「な、何いきなり言いだすんだよ!」


森の小道で休憩の代わりに、お昼寝していた時だった。
隣のマヨがデントとアイリスには聞こえない声で唐突な質問。
サトシは思わず飛び起きそうになりながらも、動揺を隠して返す。
……しどろもどろになってしまったので、彼女には気付かれてしまったかもしれないが。
多分聞かれたのが他の人なら、サトシはここまで動揺しなかっただろう。
しかしそれを聞いてきたのが、自分の好きな人なら多少は慌てても仕方ない。
何ともない風に、サトシはいつも通り振る舞うことにした。
まだこの感情を彼女に隠していたいのだ。
いずれは打ち明けたいと考えてはいるけれど。
そんな勇気が自分の中にはないから。
もう少し、本当にそう感じたら……そのつもりでいた。
そんな彼女はサトシの様子に気付いていないのか、そのまま話を続ける。


「ただ気になっただけ。……で、いるの?好きな人」

「……そういうマヨはどうなんだよ、いるのか?」

「――…うん、いるよ」


しばらく間を置いて返ってきた返事が、サトシの胸を締め付ける。
彼女に好きな人がいるなんて考えもしなかった。
そういう素振りも見せていなかったはず、だ。
告白する前に失恋……ショックを受ける。
サトシが頼みもしないのに、相手の特徴を挙げ始めるマヨ。
一体誰なんだ。
デントか、シューティにシゲル……もしかしたら今まで行った町の人かもしれない。
嬉しそうに話すマヨの言葉はまったくサトシの耳には届かない。
ただ、黒いもやもやがわだかまりを大きくさせていった。


「……でね、ポケモン好きというか、もはや通り越してポケモン馬鹿だし。
自覚ないから質が悪いし、鈍いし……ホント馬鹿だし」

「…マヨ」

「どうしたの」

「――…」


サトシは迷う。
ここで自分の気持ちを吐き出してもいい。
それで彼女が自分を意識してくれるなら喜んでしよう。
でも、もし彼女にとって迷惑なだけなら……
彼女は優しいから凄く罪悪感を感じて謝って、サトシを傷つけたんだと落ち込むかもしれない。
彼女の笑顔が好きなのに、彼女を悲しませることだけはしたくない。
自分のせいで困らせるのは嫌だ。
でもきっとマヨは後者を選ぶ。
そうしたら自分も、マヨも傷つくことになる。
サトシが選んだのは――…


「…そっか!マヨならきっと大丈夫だって。
だってオレの幼なじみなんだからな、自信持てよ!」


サトシが選んだのは後者だった。
これでいい、彼女に伝えられなくても。
今は彼女の側を離れるのが恐くて仕方ない。
幼なじみで、遊ぶときも一緒で、旅立ちは別々だった……しかしトキワですぐに再会。
そんな短い別れしか経験したことがないのに。
今さら離れるなんてできやしない。

だがマヨはそんなサトシの苦渋の言葉が気に入らなかったのか、眉を潜めた。
そして身返りを打つと、サトシの背中に密着する。
予想もしない行動にサトシの肩は大きく跳ねた。


「……にぶちん」

「はあ?」

「気付けバカ」

「何のことだよ」

「……サトシが好きだって言ったの!!」

「……はあ!?」


いきなり大声で叫んだマヨは(二人を起こさないように小声だが)サトシに背を向けてしまった。
今度ばかりはサトシも起き上がる。
マヨの肩を揺らしてふて寝する彼女を起こそうとした、が。


「マジで寝てるし……!」


言い逃げかよ!
ちょっと待てよ、オレには何も言わせてくれないのか。
そりゃないだろ……!

うんともすんとも言わないマヨにサトシは若干拗ねながら、自分も横になる。
もういい、そのつもりなら。
起きたら一番に彼女に大声で叫んでやる。
マヨが恥ずかしがり屋なんて関係ない。
デントとアイリスの前で、自分でも恥ずかしいくらい。


「オレだって好きだよバカ!」





拝啓、君へ

言い逃げしたんだ、
それくらいいいだろ?






もちろんヒロインは起きています。
狸寝入りです。
そんな状況で寝られるわけがありません。




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