スペ設定




森を抜け、丘に登ると小さく家がポツポツと見える。
ああ、やっとマサラに帰ってきたんだ。
リーグで優勝してチャンピオンになって、そのあと凍り付けになり事件を解決したけど、療養とまた事件に巻き込まれて帰るのが遅くなってしまった。
家に帰ったら「ただいま」と言って、母さんのご飯を食べて、自分のベッドでゆっくり寝て。
そしてマヨに「ただいま、ごめんな」って言わなきゃ。
マヨは旅に出ず、マサラから少し離れた学校に通っていたはず。
頭良いからなマヨは。
あとイエローがその日遊びに来るから紹介しないと。
オレやグリーン、ブルーが育った故郷を改めて案内してほしいんだってさ。
ちなみにグリーンとブルーはいない。
デパートでバーゲンがあるらしく、グリーンはブルーの荷物持ちに強制連行された。
(気の毒としか言い様がない)
考え事している間は時間の流れが早い、という話は本当のようだ。
さっきまで丘の上で見下ろしてたのに、もうマサラの入り口前。
――やっと帰ってきたんだな。
旅に出てしばらく経つから、とても懐かしく感じる。
もうちょっと行った先にオレの家、その斜め向かいにマヨの家がある。
オレとマヨはいわゆる幼なじみというやつだ。


「レッド……?」


急に名前を呼ばれて反射的に振り返ると、制服を来た女の子が立っていた。
少し長い黒髪、薄く化粧していて淡く輝く唇。
もしかして、


「マヨ…マヨか?」

「帰ってきたんだ……久しぶりねレッド」


はにかむと浮かぶ笑窪を見て、ああ…少し成長したけどマヨなんだと思った。
どうやら学校の帰りらしく、うしろにピジョットを連れていた。
マヨはピジョットを戻すと、オレの隣に来る。
そのまま並んで家までの帰路に着く。
旅の話を楽しそうに聞いてくれるマヨに、気分が良くなって明日イエローが来ると言ったらマヨは一瞬だけ停止した。
でもオレはそれを違和感としてすら感じ取れなかった。


「……イエローってさっき話してた…?」

「ああ、」

「ふうん…まるで両親に恋人を紹介するみたいよね」

「なっ、何言ってんだよ!」

「冗談に決まってるじゃん」


あれ、マヨってこんなこと言うやつだっけ?
クスクス笑うマヨを睨む。
オレがいない間に、少し性格が悪くなったんじゃないか……?


「ねえ……レッドはイエローちゃんのことが好きなの?」

「?、そりゃ好きだけど」


そしたらマヨは大げさにため息をついた。
なんだよ、と言わんばかりの視線を送ったら「そういう意味じゃなくて、」少し間を置いて続ける。


「恋として好きかって、あんたが言ってるのはみんな好き、でしょう」

「オレがイエローを?」

「イエローちゃんのことを話すとき、嬉しそうなんだもの」


イエローのことを……そんなの、意識したことなかった。
ただの仲間としか思ってなくて。
イエローが好きかと問われて、簡単に答えられるはずがない。
マヨは黙り込むオレをしばらく見つめて、真剣だった表情を緩める。
立ち止まるオレに対して歩きだすと、声を上げた。


「相変わらず鈍いんだ。変わんないのねレッドは」

「鈍くなんか……」

「超鈍感なことに気付いてないの?うっわ、嫌われちゃうよ…?」

「うるさいな!大体何でそんなこと聞くんだよ」


するとマヨはぴたりと立ち止まり、身動きすらしない。
もしかして体調が悪いのかも、と覗き込んだ瞬間視界が真っ暗になる。
数秒後、帽子を深く被らされたことに気付く。
元の位置に戻すとマヨは怖いくらい笑顔でオレの前にいた。
―――嫌な予感がする。


「ふふ、レッドが困るかなって思ってからかっただけだもん。
お馬鹿さんー」

「……またかよ!」

「引っ掛かる方が悪いもーん」


ケラケラ笑ってマヨは先を走る。
なぜかマヨの笑顔が本物じゃない気がして、すごく遠く感じた。
追い掛ければ手が届く距離なのに……どうして?



微かに痛む胸にオレは気付かないまま。

(前を向いたとき、マヨはどんな顔をしていたんだろう)






少年不分恋、

(少年は恋だと気付けない)



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