「というわけで私はしばらくイッシュ地方まで旅立つことにします。
探さないでください、じゃ」
「じゃ、じゃねえよ!なんでイッシュ地方に行くんだよ、というわけでとか訳分かんねえし!」
「えー…分かれよ」
「キャラ変わってるぜマヨ、つか落ち着けって」
「私は常に冷静です」
「嘘つけ!なら何でオレから逃げるんだよ」
「ちっ」
「コラ、舌打ちしない」
舌打ちするわ、黒い発言をするわで無意識に機嫌が悪くなっているマヨをサトシは必死に宥める。
いきなり「イッシュ地方に旅立ちます」とか言われたら、引き止めるだろう。
睨んでくるマヨの視線を避けながら、押さえ付けると観念したのか大人しくその場に座って。
ヒカリはコンテストに向けて特訓中、タケシも必要な物を買い出しに行っていてこの場にいるのはサトシのみ。
=彼女を怒らせたのもサトシということになる。
サトシ自身に覚えはないが、マヨがここまで怒るからにはきっと自分は彼女にとって余程不愉快なことをしたんだろう。
素直に謝ると、なぜかマヨはいっそう機嫌が悪くなった。
「自分が何をしたのか気付いてないくせに……!」
「でもオレが何かやったんだろ?じゃなきゃマヨが怒るわけねえじゃん」
「もうほっといてください。つかはーなーせぇぇ!!」
「嫌だ絶対に離さねえ」
「しつこい男は嫌われるのだよサトシくん」
「いいよ別に。マヨを離すくらいなら」
「……キミは私の嫌がる姿が好きなのかい?」
「さあどうだろうな」
「うっわあ……私はこんな子に育てた覚えはありません!」
「育てられた覚えはねえし。どうして逃げるんだよ」
「……キミに女心を理解できるものか」
「オレ男だし。だって難しいんだもん女の気持ちって」
「最悪だなサトシくん」
「お前だって男心は分かんないだろ。てか話を逸らすな」
「……ちっ、誤魔化せなかったか」
「なあどうしていきなりそんなこと言い出したんだよ」
「―――サトシが」
「オレが?」
「サトシが色んな人と仲良くなるところを見るのがいい加減嫌になったのっ!!」
「あ、おいマヨ!」
「サトシのばっか!いいもんシンジのところに行ってやる」
隙をついたマヨはサトシからするりと抜け出すと、そう言い残して走りだした。
背中が少し小さくなるまで、サトシは呆然と立ち尽くす。
「それって……」
もしかして期待してもいいのか?
緩む頬を隠しながらサトシはマヨを追い掛けた。
彼女がシンジのところに行ってしまっては困るのだ。
……なんだそうだったのか。
あいつはてっきりタケシのことが好きだと、ずっと思ってた。
なら、もう遠慮しなくていいよな?
君に恋してる
それからマヨはサトシにやたらまとわりつかれるようになったらしい。
(ええい鬱陶しい!離せ、近い!)
(離したら逃げるからやだ)
(こないだの根に持ちやがって…!)
気が付けば、ほぼ会話文で構成されていました。
好きだと気付いていない鈍感ヒロインと、タケシが好きなんだと消極的なサトシ。