無口なレッドさん
甘くないです




「マヨ……?」


ここはシロガネ山の最奥部であり、普段はオレ以外にいない。(野生のポケモンもだ)
険しいからよほどのトレーナーか登山家しか足を踏み入れない。
まずバッチをたくさん持ってなきゃ入れすらできないけど。
今日も屈強な野生のポケモンを相手にするはずだった…が。
足音もなくいつの間にか同じマサラ出身のマヨがそこにいた。


「おおー、こんなとこにいたのねレッド。探したよ」

「いつの間に…どうやって……」

「細かいことは気にしない。
しっかしこんな所に引きこもりなんて相変わらずポケモン馬鹿よねぇ」

「何しに来たんだ?」

「……レッドに会いたくて」


多分オレが会いたいと思えば、よくマヨはマサラにいるからすぐに会えるはず。
なのに目の前のマヨに違和感を感じるのはなぜだ。
まるでマヨじゃないような……いつものマヨとは違う気、がする。


「レッド。私と一対一でバトルしよ」

「え……?」

「たまにはいいじゃん、どうせ暇でしょう?ね!」

「……別にいいけど」

「やった!ありがとう、でも負けないから」

「こっちこそ」


彼女は屈託なく笑うとピカチュウをくりだした。





「はあー…私の負けかあ」

「戻れ、カビゴン」


目を回して倒れたピカチュウを抱えて苦笑するマヨ。
おかしい、マヨはピカチュウなんて捕まえてなかったはず。
何回か見たことのある彼女の手持ちは確かどくタイプ専攻だった。
マヨのニドクインを見て、戦いたいと疼いたのを覚えている。

でも今のピカチュウはレベルが初期のときに覚えているわざしか使わなかった。
マヨが育てているならかみなりを使えてもおかしくないのに。
よく分からない不安がオレの胸を支配する。
何だこれ、は。


「なあマヨ……」

「……も、いいや」

「何が、」

「ありがとう、最後に私の我儘に付き合ってくれて」


そう言ってピカチュウのほっぺに自分の頬を寄せると、か弱くちゃあ、と鳴いた。
……彼女の腰にあるはずのピカチュウのモンスターボールがなくなっていた。


「レッドもありがとう。もう思い残すことも、ない」

「は、」

「さようなら。あとみんなにごめんって…言ってて……」


その直後マヨはピカチュウと一緒に目の前から消えた。
本当に言い終わって、そこには何もないかのように。
ここは明るいし、近くに隠れる場所も何もない。
それなのにマヨは姿を消したんだ。
頭の中で警戒音がうるさいほど鳴り響いた。





「グリーン…」

「お前レッドかよ!?今どこにいるんだ、大変なことがあったのに俺お前の番号知らねえから連絡取りようがないし……」

「なあマヨは?」

「!、…」

「なあマサラで元気にしてるんだろ、マヨのことだからさ」

「……そのことなんだけどよ、レッド。落ち着いて聞けよ」


ポケナビ越しだけど、やけに真剣なグリーンから聞こえた現実にオレはポケナビを落とした。
グリーンの声が微かに聞こえるけど、今のオレの耳までは届かなかった。
さっきまで確かにそこに存在したマヨの変わりない笑顔、声。
マヨが消えてしまった理由を知って、オレは壁を何度も殴る。


「レッド……マヨは三日前に死んだんだ、獰猛なポケモンから野生のピカチュウを守ろうとして。
最後までお前を呼んでたよ」


「あの馬鹿……っ」




現実はこんなにも


(翌日オレは下山してグリーンの所へ行った)
(案内されたのはマヨの名前が彫られたお墓)
(小さくピカチュウのお墓も並んでいた)


(マヨの笑顔の裏に隠された思いに気付けなくて)
(お墓の前で一人、何年か振りにオレは静かに泣いた)













「ごめんね守れなくてごめんね、痛かったよね」
「ちゅう…」
「私にもっと力があれば……みんなを…ニドクインを一人にしちゃったから、きっとグリーンに怒られちゃう。
ポケモンのことを考えてやれって、置いていくなって。
レッドどうしてるかな、シロガネ山にいるって確かグリーンが言ってたっけ。
……ねえピカチュウ、私の最後の我が儘を聞いてくれる?」
「ピカ!」

「もう一度、レッドと会いたい。
あいつはポケモン馬鹿だからさ、自分を疎かにしちゃうの。
だから私が言ってやらなきゃ……“このポケモン馬鹿!”って」







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