「マヨー、何してんだ?」
「ん?ポフィン作りをしてるの。タケシに木の実貰ったから」
先程から何かを擦り合わせているマヨの顔を覗きこみ訊ねると、そう返ってきた。
手の中には細かく刻まれた木の実が。
これがあのポフィンになるのか……オレにはできないな。
器用なマヨはタケシに色々ならってたくさんのことを吸収していく。
料理だってマサラにいたときはからっきしだったのに、今じゃタケシの次に旨い。
手先だって不器用だったのに、服まで縫えるようになった。
マヨの場合、トレーナーとしての旅というより主婦修行の旅みたいだな。
オレが言いたいのは、マヨはオレと違って家庭的なところがあるっていうこと。
ポフィンはマヨが作る係になっていて、ポケモン達が美味しそうに食べているのを見ると少し羨ましくなる。
だってピカチュウ達は言うならマヨの手作り料理を毎日食べてるってことになるだろ。
(ヒカリは自分で作って自分のポケモンにしかあげていない)
(ヒカリはコンディション重視でマヨはけづや重視らしい)
料理は基本タケシがするから、マヨが上手くてもちゃんとした手料理を食べることがあまりないわけで……
ポケモンに嫉妬するような心の狭すぎる自分が嫌になる。
「なあマヨー」
「ん、何?」
「オレにもポフィン作れるかな」
「サトシには向いてないと思うよ。細かい作業だもの」
「そうなのか?」
「焦がさないように常に気を使わないと………」
それを聞いて向いてないと思った。
オレはガンガン攻めるタイプで、じっくりやるなんて性に合わない。
少し黙っているとマヨはまた黙々と作業に集中する。
専用の小さな鍋でポフィンの元になる液体をぐるぐると掻き混ぜていた。
これがあの柔らかいポフィンなるなんて思えない、むしろ怪しい液体じゃないのか。
「なあマヨー」
「ごめん、今ちょっと目が離せない……」
「ちぇ」
何だよそんなにポフィン作りが楽しいのか?ポケモンフーズだけでもいいじゃん……多分そんなことを言ったらタケシとヒカリに怒られるなぁ。
ポケモンのコンディションや毛並みがどうたらこうたら。
オレには全部同じにしか見えないぜ。
大体どの木の実混ぜたらどうなるかとか、オレにとって興味のないことなんだよ。
それで強くなるなら勉強するけど…
「はいサトシ」
「うわあぁぁああ!オレはポフィンのことなんて考えてないぞ!」
「……何言ってるの?はい、出来たてのポフィン。試食してみてよ」
「人間でも食べれるのか?」
「ポケモン用ではあるけどね。サトシ味には疎そうだし。せめて手持ちがどんな味を好みか把握したら?」
「そういうのってよく分かんないんだよな」
「はあ……これはニドクイン用のポフィンよ」
「へえ」
差し出された黄緑色のポフィンを一かじりしてみた。
……すっぱ!てか苦!!なんだよこれ!
そしたらマヨは、にがすっぱポフィンよと補足してきた。言うのおせーよ!
口に合わなかった?なんて首傾げても可愛いだけだから!
オレがそれに弱いって分かってやってるだろ、絶対に。
………でもこうしてポケモンの為に一生懸命になるマヨの横顔も好きだと実感した。
キミの横顔
(これはピカチュウ用よ)
(辛ッ、辛すぎたろ!)
(ピカチュウはかっこよさ向きの技が多いんだもの)
((毎日こんなの食べてたのかよ……!))